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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

中里恒子 「綾の鼓」

この作品はタイトルの「綾の鼓」の意味がわかれば作品の主旨がおおよそ把握できます。この「綾の鼓」というのは能の世界では有名な作品のタイトルなのです。ある身分の低い老人が、雲の上にいるような高貴な女性に恋をします。とうてい叶わぬ恋ですが、女性は庭の桂の木に鼓をかけて、それを鳴らすことができれば老人の望みを叶えてやると約束します。老人は鼓を鳴らそうとしますが鳴りません。なぜならそれは皮ではなく綾が張ってあったからです。老人は絶望して池に身を投げて自殺します。この老人はその後怨霊となって現れ、女性に鼓を鳴らせとせまります。老人の逆襲ですね。今度は女性のほうが鼓が鳴らずに苦しむという話です。作品の中でもこのエピソードは説明されていますが、予め理解した上で読み進むと作者が何を言わんとしているのかがよくわかります。この作品の場合は男が好きになった女性は人妻でした。二人は深く愛し合いますが、周囲の人間関係を尊重する上ではこれもまた、”いくら努力しても叶わぬ恋”というわけです。鼓は打っても打っても鳴りません。ところがこの二人、絶望することなく大胆な行動に出ます。綾の鼓が鳴らないのであれば皮に張り替えてしまえ、ということで全ての人間関係を捨てて二人でスペインに行ってしまいます。時代が戦争中ということも重なり、二人には様々な苦難が用意されていますが一つ一つ乗り越えて、ついに二人はその愛を貫き通します。鼓を張り替えるほどの強い愛もあるぞというわけですね。ただ、二人の幸せの過程には他の多くの人の不幸や迷惑が土台となっていますので、そのへんはどうなのかという疑問が残るのも確かです。恋愛に対する考え方において賛否両論に分かれる作品ではあります。さてあなたの意見はどちら?是非一読して考えてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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