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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

国木田独歩 「酒中日記」

読み手を笑わせる意図を持って書かれるユーモア小説においては、文章自体も軽妙洒脱にしたほうがより楽しくなっていいかもしれませんが、悲しい物語を書く場合にはシリアスで重い文章にするよりも、逆に冗舌的に書いたほうがその内容がより心の奥のほうに響いてくるような気がします。この作品の出だしを読めば、タイトルも「酒中日記」とあるわけですからきっと酔っ払いの失敗でも面白おかしく書いた日記体の小説なんだろうと思うでしょう。ところがこれが全くシリアスな内容なんです。主人公は日記の中で自分のつらい過去を振り返っていきます。本人は悪人ではないのに周囲に悪人やだらしない人がいたことでその巻き添えを食って、意図しない辛い人生を歩んでしまうというパターンは現実によくある話ですが、この主人公の回想はまさにその典型的な例です。何も悪いことをしたわけではないのにまるで追われる悪人のような心境に陥り、ついには大事な人まで失って、生きていく辛さを身にしみて味わったことを少しずつ思い出しながら書いています。では今はどうなんでしょう?そうやって回想しているからには苦境から抜け出して全く新たな環境で新しい人たちに囲まれて平和な人生を歩んでいるわけなんですが、それでも主人公の中には悲しい別れをしたかつての大事な人の面影が生きており、重荷はまだ肩に残っています。それがわかるのが最後のシーンです。主人公が死の間際につぶやく言葉こそ、彼の持ち続けた懊悩を表現しています。この物語の悲しみは心の奥底にまで達してずっと消えることはありません。これこそ傑作の効果だなと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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