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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

夏目漱石 「倫敦塔」

夏目漱石は明治33年5月に文部省からイギリス留学を命ぜられます。彼が熊本の第五高等学校の英語教師をしている時でした。本場イギリスで英語教育について学んで来いというわけです。日本を代表して政府に選ばれたわけですから、彼の優秀さが想像できます。こうして約2年間の留学生活が始まりますが、この作品はイギリスに来てまだ間もない頃に一人でふらりとロンドン塔を観光した時のことを、数年後に回想して書いたもので、明治38年に発表されています。この作品の特徴は、紀行文のような形式をとりながら、そこで見たものをきっかけに空想の世界が広がるという部分が度々出てくることです。つまり、紀行文のパートと歴史小説のパートが交互に現れるような形になっていて、非常に興味深いものがあります。空想の世界で登場する人物の顔をよく見ると、さっき見た子連れの女性の顔だったりして、現実と空想が融合して不思議な感覚を誘います。でも最後は下宿の主人におちをつけられてユーモラスに終わります。夏目漱石ともなれば由緒ある歴史的遺物をこういう感慨をもって見るんだなと思うと、妙に感心させられてしまいました。おそらく自分なら見物したものに対して、一瞬は古に想いを馳せて感慨を持つことでしょうけどすぐに忘れてしまうと思います。紀行文もただのレポートになってしまうのが常です。それが天才にかかればこんな深い作品に仕上がるわけですからね。やはり脳みその質から違うのでしょう。それにしてもこの作品に限らないことですが、他の追随を許さない美しさを持つ文章には本当に圧倒されて言葉も見つかりません。あ、この箇所いい!と思って何度も読み返すことが何度もありました。だから短い作品ですが時間をかけてじっくり読みたくなります。この作品はある意味紀行文の最高峰かもしれないと個人的に思いました。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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