蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宮尾登美子 「岩伍覚え書」

宮尾登美子の父親は高知において遊郭に芸妓や娼妓を紹介する仕事をしていました。かなり繁盛していたようで地元では有名だったそうです。仕事柄任侠の世界とも縁が深く、そういう環境において商売を続ける人間的強さは十分にあった人のようです。その人が実に14年分もの詳細な日記を残しており、それが後に宮尾登美子の数々の小説の資料として生きることになりました。この小説はその日記の中の記事を大いに活用したもので、名前も父親の本名「岸田猛吾」を「富田岩伍」に替えて、父親をモデルにして描いています。その残された日記というのが「一日の空白もなく天候、来信発信、一日の出来事、金の出し入れなどぎっしりと」書かれていたそうで、当時の生活の様子を知る要素がふんだんに含まれていたそうです。父親の生きた時代を取材して描くという時に、いくら当時の関係者に取材したところで生活のディテールまではなかなかつかみにくいところでしょう。そういう意味ではこの日記の存在は非常に大きかったのではないかと思います。宮尾登美子の作品は様々な困難を乗り越えて強く生きていく女性を主人公にしたものがほとんどで女性の目から見た人生を描いていますが、この作品は珍しく男性目線です。岩伍自身が遊郭を舞台に芸妓娼妓業を営む上で起こる様々な出来事や経験を回想しつつ淡々と語るという形式をとっています。その語り口がまた粋で、任侠の世界を渡りあるいた男の自信を感じさせる淀みない口調でぐいぐいと物語の中に読者を引き込んでいきます。その技量には全く驚嘆を覚えます。宮尾文学の基礎ともいえる名作です。是非読んでみて下さい。この作品は「櫂」、「陽暉楼」、「寒椿」などの名作にも関連しているので続けて読まれることをお勧めします。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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