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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

松本清張 「西郷札」

松本清張は、昭和27年に「或る『小倉日記』伝」で芥川賞の受賞により表舞台へデビューしましたが、実はその前にここで紹介する「西郷札」で昭和26年に「週刊朝日」が募集した懸賞小説に入選し、その年の直木賞候補になっています。そのことが翌年の芥川賞の受賞につながっています。当時松本清張は既に43歳でしかも苦労の連続の人生経験を経ていたとはいえ、とてもデビュー前の作品とは思えない完成度に審査員はきっと驚いたことだろうと思います。西郷札とは、西南戦争の時に西郷軍が軍費調達のために発行した軍票です。後で換金できるからと一般人に強制的に買わせていたそうです。でも敗戦によって価値は0に。しかも政府がその補償もしなかったので全くの紙屑になりました。この作品ではそれを政府が補償するかもしれないという噂から一つの事件が起こります。主人公は不本意ながら事件に巻き込まれていきます。しかしその噂には私怨がからんだ罠があって……ということで、短編でありながら事態がどんどん展開し、全く目が離せない面白さがあります。襟首つかまれてぐっと本の中に引きずりこまれるような強さを感じます。最初にしてこれですから、後の大作家への道というのはもう最初から約束されていたんだなと思います。物語の面白さに加えて、時代考証の細かさは随所で感じます。この点も調査に重点を置く松本清張の仕事の特徴が既に出ています。史実をきちんと調べ、想像力を働かせて物語を組み立て、巧みな文章で綴るという完璧な仕事はデビューの時点で確立されていたことがよくわかります。大物というのは最初から大物なんですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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