蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

原民喜 「夏の花」

悲しい運命を背負った作家は結構います。作家というものが本来悲しい運命を背負うべき存在なのかと思いたくなるほどです。原民喜もその一人で、その人生はまさに涙なしでは語れません。原民喜とくればすぐに連想するのは「原爆」です。彼は広島で被爆しました。そのことだけでも大きすぎる悲劇ですが、実はそれ以前からすでに悲しみを背負っていました。愛する奥さんが病に倒れ、数年の看病もむなしく先立たれてしまいます。彼は奥さんが死んだら一年後に自分も死のうと考えていました。そしてそれまでに奥さんとの思い出を一冊の詩集に書き残すつもりでした。ところがもうすぐ一年が経過というその時、奥さんのお墓参りをした翌々日に原爆が投下されます。幸い生き残った彼はこの世の地獄を目の当たりにします。そしてその悲惨な現実を作品にし後世に残すことを自分の新たな使命と考え、さらに数年生き延びる決意をします。そして生まれた作品の一つがこの「夏の花」です。奥さんの墓参りのシーンから始まり、原爆投下の瞬間、投下直後の広島の様子などが残酷なまでに克明に記録されています。「水をください」という声、「たすけてください」という声、彼の周囲は死で囲まれていました。いたるところに醜い死体と建物の残骸、人命も文化もわずかな価値さえ与えられず、簡単に奪われていきます。彼は逐次メモをとっていたので作品のリアリティが強烈で、それを洗練された文章で表現してあるので文学作品としても非常に水準の高いものとなっています。彼は原爆の悲劇を書き残したことで使命を終えたと考えたのか、1951年に鉄道自殺をします。悲しく短い人生でしたが、その作品は後世の人間に永遠に平和の尊さを訴え続けることでしょう。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する