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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

坂口安吾 「狂人遺書」

全く独自の世界を築きあげ、天才と言われる作家の中でも一際異彩を放つ坂口安吾は国内外を問わず多くのファンを持っています。その理由としては作風や思想がまず上げられるでしょうが、作品のジャンルが多岐に渡ることもその一つだと思います。「堕落論」などの論文、「白痴」などの文学小説、「風と光と二十の私と」などの自伝小説、「不連続殺人事件」などの推理小説、「黒田如水」などの歴史小説……などなど、どの方角にその才能をふるっても見事に結実しています。これだけ幅が広ければいろんな角度からファンがつくのは当然と言えば当然ですね。ここで紹介する「狂人遺書」は豊臣秀吉を扱った歴史ものです。これが実に面白いです。坂口安吾の歴史ものというのは単に史実に沿ってそこに多少肉付けしてドラマ仕立てにしていくというものではなく、大胆に自分の説を盛り込んだ斬新な物語になっています。どの歴史小説家の作品とも違う、坂口安吾にしか書けない歴史小説になっています。こういった大胆な考察に基づいた歴史小説の書き方というのは後世の歴史小説の大家たちにも大いに影響を与えています。ストーリーは豊臣秀吉の遺書という形式をとっています。采配をふるい、表舞台で自らを演じている秀吉は、心の中では多くの葛藤と戦い、悩んだり悲しんだりしています。例えば悪評高い”朝鮮出兵”の時もどうして決行することになったかといういきさつの場面では、本当は是が非でも朝鮮へ渡ろうと思っていたわけではないのに時勢の中でうまく舵がとれず、ずるずるとことが運ばれていく……というふうに、史実の裏で秀吉がどういうふうに考えていたかが描かれています。本当の自分を理解してくれている人はいないという孤独感がよく描かれています。歴史ものも坂口安吾の手になるとそのジャンルにおさまりきれない幅を持ったものになるからやっぱりこの人はすごいなと思います。歴史ものは他にも「二流の人」「信長」「道鏡」「家康」「紫大納言」などたくさんあります。時代も奈良時代から平安時代、戦国時代、幕末など多岐に渡っています。坂口安吾の歴史小説だけを集中して読んでみるというのも、その才能を楽しむには面白い試みだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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