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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

堀辰雄 「風立ちぬ」

人間にとって何が幸いで何がそうでないかは、死後にその人の人生の全体を見渡した時に初めてわかることかもしれません。大きな障害に直面した時は自分を不幸と思い苦しみ悶えるものですが、後になって考えるとそれは後に必要な何かのための布石だったりすることはよくあることです。全ては神の御手の中にということでしょうか。一時的な境遇が全てであると考えるのは間違いです。堀辰雄の場合は、肺を患ったことがそれにあたるかもしれません。彼は「聖家族」で文壇にデビューしてまもなく、結核を発病します。そして死に至るまでの長い病気との戦いが始まります。このことだけを見れば不幸そのものですが、それによって彼は後に名作を世に残すことになります。まさにこの作品もその不幸の賜物です。彼は奥さんも結核だったので2人して八ヶ岳山麓の富士見高原療養所に入院しますが、悲しいかなここで奥さんが先に亡くなります。この時のつらい経験をもとに、この名作「風立ちぬ」は生まれます。美しい文章で語られる美しいストーリー。肺の病気なので高原などの澄んだきれいな空気が必要だったことが、このような澄んだきれいな文章を生むことに影響したのかもしれません。物語は、軽井沢で療養している病弱の少女と、親の反対を押し切って彼女と会う男性のはかない恋愛を描いています。考えてみればよくある「高原のサナトリウムにいる病弱の美少女」というパターンはこの作品が最初かもしれません。肺を病んでいても、こんな素晴らしい作品を生む人の心の内側はさぞかしきれいだったことでしょう。作家の不幸が生んだ名作は後の世の多くの人の心を豊かにしてくれました。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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