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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

伊藤整 「火の鳥」

伊藤整は詩や小説だけでなく、文芸評論においても大きな足跡を残した人です。作家やその作品の本質を鋭くとらえることにおいては、非凡なる才能を持っていたといっていいと思います。本質を鋭くとらえるという意味では、女性の心理においても同じことが言えると思います。1954年に婦人公論に連載されたエッセイをまとめた「女性に関する十二章」はベストセラーになります。男性でありながら女性の心理をとらえることができるというのは、偉大なる作家でもなかなか難しいものがあります。伊藤整はそれを見事にやってのけたわけですが、その顕著な例はこの作品において見ることができます。主人公は類稀な美貌を持ったハーフの女性です。まわりが少し距離をおくほどの美しさが彼女の最大の武器で、そのことを彼女自身はっきりと自覚しており、自らの武器を有効に活用して生きていくという話です。主人公の内面の悩みや、それを克服していく強さ、一人よがり的なプラス思考、したたかな思惑、狡猾な逃避、臨機応変な追従・・・そういうものを本当に女性の立場になって実に見事に描いています。作家の名前を知らずに読めば女性が書いたものと思う人は多いはずです。それほど卓越した心理描写です。主人公は美貌を生かして学生時代に演劇の世界に足を踏み入れたことから、その道に進み、舞台では花形となりやがて映画にも出演します。自信家の彼女は外部にはわがままとしか映らないプラス思考で常に前進します。様々なトラブルやゴシップが彼女のゆく手を阻みますが、たくましい彼女は女性の武器である涙やその場だけの愛情で切り抜けます。きっと芸能界にはたくさんこういう女優がいるのではないかと思います。またこれくらい強くないと生き残れない世界ではあると思います。したたかに生きる美貌の女優の生涯、伊藤整ではないと書けなかった傑作だと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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