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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

徳永直 「太陽のない街」

徳永直の人生は本当に涙ぐましい苦労の連続です。熊本の貧しい小作農の家に生まれてから作家としての地位が確立するまでの間に実に様々な仕事を経験しています。働きに働きまくったという印象を受けます。それは夢を叶えるためとか、お金をためるためとか、そういうプラス思考の動機によるものではありません。生きるためにそうせざるを得なかったからです。死に物狂いで働かないと食べていけない状況に置かれていたからです。そうやって苦しみながらなんとか生きているという自分をふと省みた時に、どうしてこうなんだろう?これが本当なんだろうか?何か間違ってないだろうか?と疑問を持つようになるのは当然だと思います。そして労働運動に参加して活発な活動を始めますが、ある大規模な印刷争議に参加した時に労働者側は敗北し、徳永直も1700人もの同僚と一緒に解雇されます。この時の苦い経験をもとに書かれて「戦旗」に小林多喜二の「蟹工船」と同時期に連載され、ともにプロレタリア文学の傑作として賞賛されたのがこの作品です。多くの労働者がそれぞれ信念を燃やして戦います。そこには暴動があり、罠があり、裏切りがあり、恋愛があり、悲しみがあります。実に壮大な労働者の記録です。印刷争議は敗北してもこの作品を世に残したことで後世の人間に影響を与えることに成功しました。文学作品の存在意義の一つの形を教えられた作品です。ところがそれほどの作品を残し、共産主義の旗のもとに労働者のために戦った徳永直も、当局の弾圧に耐えきれずに後に転向します。これは当時の社会情勢から見て無理もない話です。昭和の初期における治安維持法違反容疑での検挙者の数は7万人を下らないそうですが、そのほとんどは転向したそうです。劣悪な牢獄生活を経験させられたり、拷問されたりしていますから誰が彼らを責めることができましょう?転向しなかった人は本当にごくわずかだったそうです。ただ徳永直は転向したとはいえ、働く庶民の目線で書くという姿勢は持ち続けました。それで十分評価すべきだと思います。社会全体が狂っている中で正気を保つことの難しさをプロレタリア文学の作家たちの生き様は教えてくれます。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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