蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宇野浩二 「蔵の中」

これは宇野浩二の出世作です。この作品を機に文壇での地位を徐々に固めていくわけですがこれを書いた当時は貧乏のどん底だったそうです。そんな中で必死で書いたこの作品はその境遇とは裏腹に非常にユーモラスで、恐らく読まれる人は我知らず笑みが浮かぶことだと思います。この作品は、主人公の語り手が話下手ながらも一生懸命に聞き手に対して身の上話をしているという形をとっています。その軽妙な語り口にこの頃の宇野浩二の力量の一端を見るような気がします。語り手は着道楽で集めた様々な着物を、食うに困って片っ端から質屋に入れているわけですが、それがどうも心配になって質屋に頼んで虫干しさせてもらうという内容です。無理を言って主人の留守中に質屋の二階で自分の着物を干して、そしてこれまた自分が質入したふとんを敷いて、そこに寝ながら干してある着物を眺めていると、それらの着物の一つ一つにまつわる思い出が甦ってくる……という感じでとりとめもなく身の上話が進んでいきます。時々、聞き手が混乱してないか、飽きているんじゃないかと心配して、「皆さんの頭でほどよく調節して、聞きわけしてください。たのみます。」「どうぞ、自由に、取捨して、按配して、お聞きください。」「どうぞ、大目にみて聞いてください、たのみます。」「辛抱して聞いてくださいますか。」と途中で懇願しながら話を進めていきますがその様子が読み手に笑いを誘わずにはいません。こういう饒舌体はえしぇ蔵は個人的に大好きです。このストーリーは親しくしていた広津和郎に聞いた近松秋江の逸話をもとにしているそうです。近松秋江は質に入れた自分の着物を質屋の中で干して、質に入れた布団に寝てそれを眺めたということがあったそうです。ただその話をベースにはしていますが、それぞれの着物にまつわる女性の話は宇野浩二の経験談を元にしているそうです。宇野浩二は近松秋江の作品を高く評価しており、少なからず影響も受けているようです。ですからこの作品は近松秋江へのオマージュでもあるかもしれません。皆さんも是非ご一読下さい。読みながらきっと笑ってると思いますよ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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