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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

永井荷風 「おかめ笹」

悪人ではない普通の人であっても、俗な考えに縛られてよくないことをしてみたり、そして失敗して後悔したりということは常にあることです。また人間というのは精神的に弱い生き物であって、それがたくさん集まることで社会というものが形成されているのだと思います。本当に心から善人で非の打ち所のない聖人君子などは存在しないと思います。そういう観点から永井荷風の作品を読むとしみじみと心に沁みてくるものがあります。いろんな欲に振り回されてあっちふらふら、こっちふらふら、そしてドジを踏んで後悔するけどまた欲が湧いてきて同じ失敗をする。読んでいて「まったくしょうがねぇなぁ」なんて思ってしまう登場人物がこの作品には出てきますが、それはきっと誰の中にでもある姿だと思います。自分はこんなんじゃないと思いながら読んでいても、どこか共感を持ってしまうのでつい許してしまう。この作品の主人公を見てるとそんな気持ちにさせられます。でも凡庸で愚かな主人公も偶然に幸福へのきっかけをつかみ、今度はそれに振り回されてどんどん人生が開けていきます。えしぇ蔵は実際の人生もそうだと思います。多くの場合、成功というのは偶然のきっかけがかなり作用していると思います。この作品を読んで、結局は人間というのは幸せにも不幸せにも振り回されて生きる愚かな生き物なんだと教えられるような気がします。何かに秀でた才を持ち、成功に向かって邁進する優れた人物ではなく、市井のありふれた、弱さをもてあましつつも自分なりに生きるごく普通の人々を描かせればやはり永井荷風の筆は他の追随を許さないものがあると思います。こういう言葉を残しています。「われは決して華々しく猛進奮闘する人を忌むに非ず。われは唯自らおのれを省みて心ならずも暗く淋しき日々を送りつつしかも騒し気に嘆かず憤らず悠々として天分に安んぜんとする支那の隠者の如きを崇拝すと云うのみ」なるほどこういう境地にある人だからこそこの名作が生まれたのだと理解できると思います。まさにそこにこそ永井荷風の文学の源泉があるのではないでしょうか。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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