蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

島尾敏雄 「死の棘」

この「死の棘」は島尾敏雄の作品の中でもちょっと特異な位置を占めるもので、彼の魂の全てを注ぎ込んだと表現してもいいくらいの大作です。非常に長い私小説です。何年も続いた自分の家庭のつらく悲しい時期をごまかすことなく赤裸々に綴っています。全てを読者に見せて、自分の苦しみをまるごと作品化してしまおうとする強い姿勢には脱帽のほかありません。ストーリーは極めて悲しく重いものです。島尾敏雄の10年にわたる浮気が奥さんにばれてしまい、そのショックによって奥さんは精神的に大きな傷をおってしまいます。今でいう躁鬱の状態になってしまいます。激しく憤って旦那を罵り、浮気相手とのことを細かい部分まで問い詰め追い込むかと思えば、次の瞬間には泣き出して死にたいと言ったりする、そんなやりとりを夫婦で毎日毎日やるわけです。これだと旦那もおかしくなるのは当然です。彼は苦しみから逃れるために発狂したようなフリをして逆に奥さんを慌てさせたりします。子どもたちはそんな二人の毎日のやりとりを、「カテイノジジョウ」と呼んで悲しんだり、あきれたり・・・まさに家庭崩壊です。なにしろこれが全部実話なんですからすごいというほかありません。家庭不和と、それに追い討ちをかける貧乏とで何度も転居を繰り返し、最後は奥さんの実家に帰ることになります。私小説もここまでくると凄まじいものがあります。島尾敏雄の自業自得と言ってしまえばそれまでなんですが、苦難を抱えた一家族の苦しみもがく姿にはやはり強く訴えてくるものがあります。この作品は小栗康平監督により映画化され、カンヌ映画祭でグランプリを受賞しています。外国の人の心もふるわせたということでしょうか。それともこういう「カテイノジジョウ」はどこの国にもあることだから共鳴するものがあったということでしょうか。優れた作家ほど生活そのもの、生き方そのものが作品になっていくものですが、ここまで自らの私生活を作品にすることができる心境に達することはなかなかできることではありません。苦しみの中で何かを悟ったからこそできることだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する