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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

島尾敏雄 「出孤島記」

太平洋戦争の末期、敗色濃厚な日本の苦し紛れの秘策は神風特別攻撃隊だったわけですが、これは航空機によるものだけではありませんでした。様々な体当たり攻撃の方法が考案されましたが、その中の一つが船によるものです。船といっても軍艦のような立派なものではありません。今でいうならレジャー用のモーターボートみたいなものの先の部分に爆薬を仕込んだだけの実に頼りない構造のものでした。普通に考えればそんなものが巨大な鉄の固まりである軍艦を沈めることができるわけがありません。突っ込んで行く途中で射撃を受け、それが爆薬に引火して敵の船に辿りつく前に自爆してしまうのは明らかです。全くの自殺行為です。ところが戦争の狂気というものは敗色濃厚な国の指導者の正常な判断を奪って、こんな悲惨な攻撃を真剣に準備して実行に移そうとするわけです。その虚しい任務を任されたのがこの作品の主人公の部隊です。船による特攻の部隊を率いて、ある島で出撃命令を待つ部隊の隊長がこの話の主人公です。万全の体制で出撃命令を今か今かと待つ緊張感が作品の中に漲っています。その異様な雰囲気の中で、主人公の心理は国のために見事に死んでみせようという思いと、なんとか生き延びたいという思いが交差します。当時の多くの兵士が持ったであろう複雑な心理を持て余している様子が非常によく伝わってきます。それもそのはず、この話は作者の実体験をもとに書かれています。だから臨場感はすさまじいばかりです。出撃命令がなかなか来ない焦り、いわゆる死を待つ焦りはある意味死よりも辛いものなのかもしれません。じらすくらいなら早く死なせてくれと思ったことでしょう。当時は多くの若者がこんなつらい状況を体験したことを思うとなんとも胸に迫るものがあります。この作品は、「出発は遂に訪れず」「その夏の今は」の二作品につながります。発表時期は離れていますが、時間的につながっているので三部作と認識していいと思います。是非この二作品も読んで下さい。平和な世界において正常な心理状態でいられるありがたさを再認識できる作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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