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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

芥川龍之介 「蜜柑」

最も優れた短編小説作家は誰か?とくれば志賀直哉と芥川龍之介の名前が誰しも浮かぶところでしょう。個人的にもこの二人の短編は完璧だと思います。雲の上のような高い水準にいます。短編で読者をうならせるというのは至難の業です。長編なら少しづつ説明できるような登場人物のキャラクターや舞台背景、自然なストーリーの展開、作者として作品にこめたいメッセージ、様々な効果を出すための文章のテクニックなどを少ない枚数に凝縮してしまわないといけません。読むのもせいぜい数分から一時間であり、何日もかかるわけではありません。その短時間のうちに読者の心の中に何かを残そうというわけですからまさに至難の業です。それに失敗して単なる短い文章に終わり、読者の頭から翌日には消えてしまっている作品も少なくありません。まさに作家の力量のみせどころですね。芥川龍之介は王朝ものと呼ばれる歴史ものや「河童」みたいな不思議な話などに見られるように、エンターテイメント性も含んだ面白さで読む人をひきつけますが、この「蜜柑」はそれらとはちょっとテイストが違います。おそらく芥川龍之介が実際に見た情景を描いているようです。電車の中で一人の少女が寂しそうに座っているのを主人公が見かけるところから物語は始まります。電車がトンネルに入ろうとする時にその少女は一生懸命に窓を開けようとします。そしてなんとか窓は開いて電車がトンネルを抜けると、外の景色の中に少年が三人並んで電車に向かって何か叫んでいるのが見えます。その三人に向かって少女は手を振って、持っていた蜜柑をいくつか投げます。要するに奉公かなにかに行く少女を見送りに来た弟たちに、少女は蜜柑をあげて別れを惜しんでいるわけです。このシーンの美しさ!目の前にありありと情景が浮かんで心がふるえます。別離の悲しみの中に家族の愛を描いて心温まるものを残してくれる素晴らしい作品です。短いですが大量に感動を与えてくれます。まさに短編小説の一つの模範と言えるかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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