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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

佐多稲子 「機械の中の青春」

この作品は典型的とも言うべきプロレタリア文学で、佐多稲子の本領発揮というところです。労働者の苦しみを描いた悲しく、勇ましい作品です。作品の中ではそれぞれに個性豊かな女工たちがたくさん登場し、それぞれの思惑で工場で必死に働いています。恋愛するものもいたり、優秀な女工としてのプライドに生きるものもいたり、労働者の待遇改善のために立ち上がるものもいたり、ただ皮肉を言うだけのものもいたり……。彼女らによっていろんなドラマが展開し、絡みあっていきます。作品全体の構成が複雑ながらもきちんとまとまっていて、高い水準の技術を見せ付けられるという感じがします。「キャラメル工場から」にはまだ若干の素人っぽさが感じられますが、この作品は完成度の高さからしても彼女の作品の中でもトップクラスだと思います。佐多稲子はこの作品を書くために実際に工場の女工たちと一緒に暮らしたそうです。どんな優れた作家であろうと、実体験のある人の心のうちを忠実に描くことはできません。技巧によってそれらしく見せることはできるでしょうが、所詮は表面だけのものになってしまいます。一方で実体験のある人がもれなく文学的才能があるわけではありません。ですから自分の体験を文学という形で残そうにもうまく表現できないという例は珍しくありません。すごい体験をした人の作品だからさぞかし、と思って読んでみて意外に感動が薄くてがっかりしたということはえしぇ蔵も何度かありました。つまり体験をした人と文学的才能がある人というのが一致することは稀なわけです。それを故意に可能にするには文学的才能がある人が自らの意思でその世界に飛び込み、実際に体験するしかありません。佐田稲子はそれを実践した人です。女工たちと一緒に働き、女工たちと一緒に寝起きし、笑い、苦しみ、汗を流したのです。そうして出来上がった作品ですから臨場感は極めて素晴らしく、また女工たちの心情も明確に伝わってきます。まさに”汗を流して書いた作品”といえます。これぞ本当のプロレタリア文学ですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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