蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

葛西善蔵 「子をつれて」

古今東西、極めて優れた作家というのは必ず不幸を背負っていました。裕福な家庭に生まれ何不自由なく成長し、順調に優れた作品を発表して多くの人に惜しまれながら幸福な生涯を閉じたという作家で文学史に名を残した人がいればどうぞ教えて下さい、と言いたいくらいそういう人はまずいません。これはなぜでしょうか?同じことが画家や音楽家でも言えます。人間の脳は懊悩することによって思わぬ創造力を発揮するようなしくみになっているのでしょうか?よく精神を病んだ人と天才とは紙一重だと言いますが、あながち誤りではないのかもしれません。苦しみぬいて精神に異常をきたした時に名作を生んだという人は珍しくありませんからね。葛西善蔵はどん底の生活の中で苦しみぬいて、それをそのまま小説として残すことによってしっかりと文学史に名を残しました。しかもこの人の場合は自らそういう境地に堕ちていった面もあります。文学のために敢えてそういう道を選んだのかもしれません。この作品はそんな彼の堕落した生活から生まれた名作です。まさに葛西善蔵の独壇場とでも言うべき、頼りない男が右往左往しながらだらだらと生きていくパターンの作品で、読んでいてあまり気持ちのいいものではありません。でもこの世界は葛西善蔵が作り上げた「心境小説」ならではのもので、文学史においては非常に高く評価されています。大正の終わり頃から昭和の初めくらいまでは特に賞賛されていたようで、「純文学の象徴」とまで言われていたそうです。葛西善蔵が死んだ時は、「日本の純文学が滅んだ」と言われたということですからよほど文壇にも影響を与えていたことでしょう。宇野浩二は「日本人の書いた、どんなすぐれた本格小説でも、葛西善蔵が心境小説で到達した位置まで行っているものは一つもない」と言っているほどですからいかに素晴らしいものであるかがわかります。彼がどん底で何を見たのか、どんな心境に達していたのか?是非この作品で確かめてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する