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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

井伏鱒二 「さざなみ軍記」

井伏鱒二は歴史物をいくつか書いていますが、非常にその水準は高くどれも素晴らしい傑作となっています。えしぇ蔵の個人的なお気に入りはこの「さざなみ軍記」です。この作品の時代背景は源平の勢力争いの頃です。源氏の勢いにおされて京都を追われ、西へ西へと逃げる平家の軍勢の悲壮な姿を描いています。その描き方が非常にユニークです。平家の軍勢に加わっていたある少年の日記の形をとっています。特に興味深いのは日々の出来事がリアルにつづってある文章の中でその少年が徐々に成長していくのがわかることです。見方を変えると軍記である反面、一人の若者の成長の記録とも言えるかもしれません。まだ子どもで弱々しく頼りにならなかったのが、いつしか立派な武将として貴重な戦力となるまでに成長していきます。ところがご存知のように平家の最後は滅亡です。日記が進むにつれて状況は悪化していきます。先に勝利が待っていない、幸せが待っていない悲壮感がバックにあって、それがストーリーのドラマ性と文章の叙情性を高めていきます。面白くてかつ文学的。さすがは井伏鱒二というべきでしょう。彼もかなり思い入れがあったみたいで、そんなに長い作品ではないのですが、なんと9年もかけて少しづつ書いています。後で知ったことですが、9年もかけたのはただ丁寧に書いたというだけではなく、この日記が何年もの長い月日を記録しているという雰囲気を出すために、敢えて少しずつ長年かけて書いたそうです。なんとも気の長いテクニックを駆使していたわけですね。なるほど10年の記録の抜粋を1日で書くとどうしても月日の長さ、時間の重みというものの臨場感が出ませんからね。そういった工夫が、本当にこういう日記が実はあったのではないか?と思わせるほどのリアリティを生んだわけです。井伏鱒二がそこまでしているわけですからそりゃいいものにならないわけがありません。こういう作品が書ける人こそホンモノだなぁとつくづく思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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