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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

大岡昇平 「武蔵野夫人」

大岡昇平は自らの南方における戦争体験をもとにした「捉まるまで」(後に連作形式で書き継がれて「俘虜記」として完成)を皮切りに、次々と名作を世に出します。戦後には同じように自分の戦争体験から発想を得たタイプの作品を書いて文壇に登場する作家が多かったわけですが、だいたいにおいて体験に頼る作家というのはいつかネタがつきて徐々に作品は精彩を欠いていくのが相場です。全くの創作で書いてみると別人のように意外とつまらないものが出来たりするものです。作家の力量というのはやはり全く何もない状態からいかに物語を創造できるか、芸術を生み出せるかで計るものだと思います。大岡昇平の場合はこの「武蔵野夫人」を世に出したことで真の実力を披露し、誰しもが文壇に大岡昇平ありと認めることになります。作品の質としてはなかなかよく出来ているというレベルではありません。それまで日本文学を支えてきた多くの先輩作家たちがこぞって絶賛したほどの名作で、文学史にもしっかり名を残していますし、小説の書き方を学ぶ際にそのお手本として度々取り上げられるほどです。武蔵野の美しい自然の描写が何度も繰り返して読んでしまうほどに素晴らしく、そこで繰り広げられるドラマにおける登場人物たちの心理描写は、ちょっと小説でも書いてみようかと思う人間を叩きのめすほどのクオリティがあります。ストーリーはといえば、まるでお昼にやっている奥様向けメロドラマのような展開を見せますが、この人の崇高な文章表現にかかると低俗にならないから不思議です。やはり名作はそのへんが違います。大岡昇平の名を不動にした名作を是非どうぞ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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