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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

長與善郎 「青銅の基督」

長與善郎の傑作中の傑作です。キリスト教がテーマになった作品ですが、キリスト教に興味あるなし関係なく、面白く読めます。舞台は鎖国中の長崎です。隠れキリシタンを見つけては改宗を迫り、改宗しないなら処刑するという過酷な時代です。江戸時代にキリシタンかどうかを判断するために”踏み絵”が使われたという事実は皆さんもご存知だと思います。この物語はその踏み絵の製作を頼まれたある南蛮鋳物師の悲劇を描いています。主人公の裕佐は腕のいい鋳物師で、ただ芸術を極めたいという望みだけを抱いていました。そんな彼が頼まれた仕事が踏み絵を作ることでした。キリスト教に興味を示すことの全くない彼が、ただ優れた芸術品を生み出そうとして完成したものは、周囲をあっと驚かせるほどの素晴らしい出来栄えでした。彼はその素晴しい踏み絵のために、悲しい運命に襲われてしまいます。踏み絵の出来栄えの良さに役人の間では彼こそキリシタンではないのかという疑惑が持ち上がり、彼は彼の踏み絵を踏めなかった人々と同じように捕らえられてしまいます・・・。短い作品ですが、テーマは重く、構成にも無駄がなく、大作にも成し得るものを凝縮に凝縮されてできた上質のエッセンスという感じがします。一文字も無駄のない完成度の高さです。翻訳されて海外でも広く読まれています。こういった人道主義的作品を書く作家というのはそれまでの生涯で貧苦と戦ってきた人が多いですが、長與善郎は全くの逆でエリート中のエリートでした。代々大村藩に仕えた漢方医の名家に生まれます。父親の長與専斎は文部省の初代の衛生局長だったそうです。学習院から東京帝大に進んで全く申し分ない人生です。そんな境遇にありながらも人の心の痛みを適確に描く作風は、おそらく学習院時代に所属していた白樺派の影響ではないかと思います。読む人の年齢層も国境も選ばないこの作品で、覚えておくべき日本の作家の一人となったといってもいいかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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