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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

夏目漱石 「草枕」

夏目漱石が日本を代表する作家であり、知名度も実力も群を抜いているということを否定する人は、よほど独自の道を行く評論家でもない限りいないでしょう。ですが本当にみんな正しく評価しているのでしょうか?そこはちょっと疑問ですね。有名だから読む、読んでおかないと恥だから読む、そういう人も多いのではないでしょうか?夏目漱石は名声ばかり先に立って、その実力を正確に評価されているとは言い難いのではないでしょうか?ここではっきり強調したいのですが、夏目漱石は恐ろしいほど優れた文学者です。文章の巧みさ、テーマの深さ、全体に感じる余裕・・・この人ほどの作家はもう出ないと断言してもいいのではないかと思うほどです。その優れた面の一つとして冒頭の書き出しのうまさがあります。えしぇ蔵は川端康成の「雪国」の冒頭、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」や、島崎藤村の「破戒」の「蓮華寺では下宿を兼ねた。瀬川丑松が急に転宿を思ひ立つて、借りることにした部屋といふのは、其蔵裏つゞきにある二階の角のところ。」、梶井基次郎の「桜の樹の下には」の「桜の樹の下には屍体が埋まっている!これは信じていいことなんだよ。」などが好きですが、それらを抑えて最も好きなのはこの「草枕」の冒頭です。「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」このリズム感ある始まりはあまりにも有名ですので皆さんもご存知でしょう。個人的にはこの一文だけでどれだけ自分の文学精神が動かされたことかわかりません。作品全体の美しさも筆舌に尽くしがたいものがあります。作品の中では芸術とはなんぞやということが登場人物の口を通して語られますが、この美しい作品こそまさに言葉という絵の具をもって描かれた芸術です。どの角度から見ても申し分ない名作ですが、夏目漱石にとってはこれも数ある名作のうちの一つに過ぎないのですから恐ろしい話です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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