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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

円地文子 「女坂」

男は世の中のために何か大きなことを成し遂げて、それで財を築いて一家を成すべきだという風潮は日本の社会において昭和の前半ぐらいまでしっかりと残っていました。これは気概ある男を育てるという意味では非常にいいことだったのではないかと思いますが、それと同時に必要性を疑いたくなる風潮も伴っていました。それは成功した男は妾を持って当然というものです。妾を囲っていることは当時一つのステータスでした。立派な男としての証のようなものでした。えしぇ蔵の父方の祖父は、曽祖父が築いた財産を引き継いだおかげで町ではある程度のステータスを誇っており、ちゃっかり妾もいました。えしぇ蔵が子どもの頃、友達の家にはおばあちゃんが2人しかいないのに、どうしてうちには3人いるのだろう?と不思議に思った記憶があります。(ちなみに曽祖父の築いてくれたものは祖父の蕩尽により父にはほとんど伝わりませんでした。)男にしてみれば勝手し放題でいいでしょうが、周りの家族にはたっぷり不幸を味あわせることになります。特に正妻にとってはただ辛いだけの人生をひたすら耐えて生きていかなければならないという現実がありました。この作品はささやかな家庭の幸福というものを得ようとしても得られなかった一人の女性の生涯を悲しく描いています。主人公は夫の辛い仕打ちの繰り返しに憎しみを覚え、距離を置くようになります。そしてついに主人公には最後まで家庭的幸福は訪れませんでした。円地文子がその力量により、そんな苦しみに耐える女性の姿を見事に描いています。これほど細やかに女性の内面的葛藤を描ける人というのもそういないのではないでしょうか?文章がまた秀逸です。高度に芸術的な文章なのに読みやすい、まさに円地文子の本領発揮という感じです。この作品を通じて、当時の耐え忍ぶ女性の実態を知るというのも一つの学びになると思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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