蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

武田泰淳 「異形の者」

あるお寺に修行僧として入った主人公が、仏教の真理を究めようというのではなく、或る意味少し冷めた感覚で宗教のなかにあるものを探ろうとします。人々が信仰の対象としている「神」や「仏」を「気味のわるいその物」ととらえ、シニカルに解釈している主人公の姿は、読む側に大きな疑問を投げかけています。最後の場面で、主人公は仏像に向かってこんな言葉を投げかけます。「……俺もこうしてあなたの前に座っていると、馬鹿らしいとは考えても、何かしら本心を語りたくなるのだ。あなたは人間でもない。神でもない。気味のわるいその物なのだ。そしてその物であること、その物でありうる秘密を俺たちに語りはしないのだ。俺は自分が死ぬか、相手を殺すかするかもしれない。もう少したてば破戒僧になり、殺人者になるかもしれないのだ。それでもあなたは黙って見ているのだ。その物は昔からずっと、これから先も、そのようにして俺たち全部をみているのだ。仕方がない。その物よ、そうやっていよ……」この言葉の中にある「気味のわるいその物」に対する思いは、宗教において迷いを抱いたことがある人なら共感するものがあると思います。人には知ることができないその正体に対して抱く不思議な感覚が、うまく表現されているような気がします。いろんな意味で非常に深い作品です。武田泰淳自身もお寺に生まれ、そして修行の経験もあるので、ここまで絶妙な表現となったのではないかと思います。傑作の呼び声高いですが、さもありなんというところです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する