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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

中里恒子 「中納言秀家夫人の生涯」

中納言秀家とは誰のことかご存知でしょうか?歴史が好きな方なら五大老の一人と言えばすぐにわかりますね。備前宰相 宇喜多秀家のことです。この人の人生は非常にドラマチックでした。栄耀栄華の頂点にまで登りつめた後は、全てを奪われ失意のどん底にまで落とされます。人の一生においてこれほど浮き沈みの差が激しかった人も稀だと思います。もともとは備前岡山の一大名でしたが、織田信長の傘下に入ることにより運が開けます。信長の死後は豊臣秀吉の配下となり、当時まだ若かった彼は秀吉から秀の字を貰って猶子になるほど気に入られます。秀吉の天下統一の過程における主な合戦には全て参加し手柄をたて、朝鮮出兵の際には大将にまで任命されます。やがては徳川家康、前田利家、上杉景勝、毛利輝元と並ぶ五大老の一人に列せられ、まさに栄華のきわみを味わいます。ところが秀吉の死後に運命は暗転します。関ヶ原の合戦の際に故秀吉への忠義を重んじた彼は西軍に組します。西軍敗退後はしばらく逃亡しますが最終的には八丈島へと流されます。この話は全てを失ってどん底に落ちた状態から始まります。前半の輝かしい人生が全て省いてあるところに、むしろかつての栄華の名残が寂しく感じられます。それまで金も名誉も権力も、全てに恵まれていた人が食糧の調達にも苦労するような土地の荒れた八丈島に流されるわけです。生活における細かい苦労話を中里恒子が非常にリアルに描写しています。このへんはやはり女流作家の腕のみせどころでしょうか。秀家夫人というのはあの前田家の豪姫です。何も不自由のない生活をする豪姫と、窮乏を味わう秀家を対照的に描きつつ、二度と会えない夫婦のお互いへの叶わぬ想いを切々と描写して実に胸にせまるものがあります。女流作家が書く歴史小説は情感豊かなのがいいですね。読んだ後に深く心に残るものがあります。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

横光利一 「夜の靴」

大学で日本文学史を勉強した人とお互いの尊敬する作家について語り合ったことがありましたが、その際にえしぇ蔵が横光利一の名前をあげると驚くことにその人は知りませんでした。大学で勉強したのに知らないということがあるでしょうか?実はこれは有り得る話なのです。新刊本を売っている街の本屋さんに行って横光利一の本を探してみて下さい。おそらく簡単には見つけることができないでしょう。今の時代、その存在すら知らない人が多いのは事実です。その理由は戦争中における彼の国粋主義的な活動にあります。要するに軍部に味方するような言動や行動が多かったので、それを戦後に糾弾されたわけです。驚くことに出版社から出版拒否なんていうこともされたようです。このへんは日本人のご都合主義の犠牲になったような観がないわけではないのですが、そういった理由によって一時は文学史から抹殺されてしまいます。あのノーベル文学賞の川端康成ですら一目を置いていたほどの作家の存在を、この国は否定した時代があったのです。そういった経緯があって今では作品があまり手に入りにくい作家という位置づけになってしまいました。この現実にはえしぇ蔵は大いに疑問を持ちます。戦時中に軍部よりのものを書いて戦後も一線で活躍した人は大勢いますが、なぜ彼だけここまで?と思わずにはいられません。それに作品の質は作家の思想や姿勢によらず評価されるべきであり、ことに優れた彼の場合は日本文学史の誇りとすべきだと思います。徐々に再評価という動きはあるようですが、えしぇ蔵的には日本人なら知らない人はいないというほどの存在に返り咲いて欲しいと思っています。この作品は晩年の彼の日記ですが、その文章の美しさは圧倒的です。その実力の片鱗をうかがうには十分の作品です。おそらく古本屋でないと手に入らないと思いますが探してみて下さい。こんなすごい作家もいたんだということを是非知って下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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