FC2ブログ

蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

徳富蘆花 「不如帰」

「ほととぎす」と読みます。そのまま「ふじょき」と読む場合もあります。徳富蘆花を一躍有名にした作品です。この作品の最大の特徴はドラマチックな展開に目を放せないストーリー性です。とにかく文句なしの面白さで読み手をぐいぐいとひきつけます。時代は明治です。美しく可憐なヒロインの浪子と誠実な夫の武男の悲しいラブストーリーです。浪子は武男が日清戦争に出征している間に結核を患い、離婚を強いられるなどの周囲の心無い仕打ちもあって、夫と離れて暮らさざるを得なくなります。お互いへの強い愛を持て余しながら、会うことができないもどかしさ。病気が治れば会えるとけなげに努力する浪子、病気であろうと一緒にいたいと願う武男、美しく強い愛情が交わされるわけです。愛し合う二人を周囲の人や環境が引き離すというパターンですね。いわゆる今時のトレンディードラマや韓国ドラマに負けない面白さです。浪子の病気は治るのか?二人は幸せになるのか?と心配でどんどん読みすすんでいきます。明治31年から32年に国民新聞に連載された作品ですが、大変な反響を呼んだそうです。浪子が言った、「あああ、人間はなぜ死ぬのでしょう! 生きたいわ! 千年も万年も生きたいわ!」や、「もう二度と女になんかに生まれはしない」は、文学史上に残る名セリフです。物語は実話がベースになっています。陸軍元帥大山巌の娘、信子に関する話を、徳冨蘆花がある間借りしていた宿で一緒になった婦人に聞いたことがきっかけでした。このことは作品の初めに作者自身が書いています。日本文学史上に輝く不朽の名作をあなたも是非!

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

北杜夫 「楡家の人びと」

北杜夫といえば「船乗りクプクプの冒険」や「どくとるマンボウ」シリーズなどが有名ですが、純文学も素晴らしいものを残しています。その中でも特に傑作なのがこの作品です。タイトルにあるようにだれか一人が主人公というのではなく、楡家の一族あるいはそれに関係する人々が各場面において主人公となります。楡家は三代続く医者の家で、初代が明治の頃に開院して成功し、大きな病院を建てて一族は繁栄します。それが大正、昭和と時代が変わっていくうちに関東大震災や、火災や、戦争などを経て徐々に没落していきます。その過程を主人公を変えながら描いているわけですが、それぞれのパートが独立して小説になるほど面白く、またテーマやタッチも変わるので全く退屈させません。初代の楡家の当主である基一郎や、事務長の勝俣が主人公のパートでは「吾輩は猫である」を彷彿とさせるようなユーモラスな内容となっており、娘婿で二代目の院長となる徹吉がメインの時には古代ギリシャに始まる精神医学の歴史を記述した学術的な内容になっています。美人の次女聖子の物語は駆け落ち後に結核になる悲劇で、徹吉の長女藍子の物語は戦争に翻弄される悲恋を描いています。また、徹吉の長男峻一の友人である城木の物語は空母瑞鶴に乗って体験する完全な戦記物です。魅力ある登場人物たちがそれぞれ時代に翻弄され、死んでいったり、落ちぶれていったり、必死に生きようとしたりする姿を見事に描いています。実はこの壮大な物語は実際に医師として三代続いた北杜夫の実家をモデルにしています。北杜夫自身も精神科医で医学博士ですが、歌人として有名な父斎藤茂吉も医師です。そして基一郎のモデルである祖父の斎藤紀一も医師です。楡家のようにして日本の家族は明治、大正、昭和と様々な苦難を通して血を受け継いで、今の日本があるんだろうなと思うと、日本人としてちょっと感慨深いものもあります。大変な傑作ですので是非読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する