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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

佐多稲子 「くれない」

佐多稲子は夫の窪川鶴次郎とともにプロレタリア文学を語る上で欠かせない存在ですが、窪川や中野重治に勧められて小説を書き始めた佐多の方が、なかなか日の目を見ない窪川を差し置いて先に世に出ます。そのうち共産党での活動で窪川は検挙されてしまいしばらく獄中生活を送りますが、刑務所から出てきた時にはすっかり佐多は有名になって稼ぎも多くなっていました。こういう自分より嫁が稼ぐという状況に置かれた男性というのは非常に大きな精神的打撃を受けます。同じ状況の男性にはよくわかることだと思いますが、家に帰っても”座るところがない”感じがするわけです。情けないという思いに苛まれます。そうなると悲しいかなどこかに逃避したくなる。心の救いを求めるようになる。それが窪川の場合は、佐多の友人でもあり作家でもあった田村俊子でした。嫁の友人を愛人にしてしまったわけです。それが発覚した後もしばらく二人はぎくしゃくしつつも同棲は続けますが、ついには離婚します。この一連の経過をほぼそのまま書いたのがこの作品です。登場人物の名前こそ変えてはありますが、ほぼ自分たちの赤裸々なドキュメンタリーです。これを佐多稲子は「婦人公論」に連載していましたから、今で言うワイドショーネタを自分で書いて発表していたようなものです。おそらく当時の人たちは興味本位でこの作品の展開に夢中になったのではないでしょうか?二人で話し合って別れると決めたのに、どちらも未練を残してずるずると中途半端な状態を続けてしまう。好きなのに別れようとする男女によくある光景をリアルに描いています。包み隠すことなく私生活をネタにしてしまうというのはこの当時の文学界ではよくあることでしたが、そういった作品の中でも妻の愛と男のプライドのせめぎ合いを見事に描いている点でこの作品は出色の出来ではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

宮尾登美子 「天璋院篤姫」

実はこの作品は宮尾登美子初の歴史小説なんですが、とても初めてとは思えない完成度です。宮尾登美子の作品というのはこれに限らず実に仕事が完璧でそつがないというイメージがあります。事前の調査・取材が細かく深くなされていて、それをもとに明朗でテンポのよい文章で物事がきちっと表現されています。読む側にとっては非常に読みやすく、わかりやすく、好感をもって迎えられるわけです。おそらく人間的にもきちんとした方ではないかなと拝察します。そういう作家が歴史小説を書けば、こんなに素晴らしいものが出来上がるわけです。また、題材として取り上げた人物が天璋院篤姫というのも興味深いところです。天璋院篤姫は薩摩藩主島津斉彬の養女で、第13代将軍徳川家定の正室だった人です。初めは斉彬の謀略の道具として徳川家に送りこまれます。持ち前の判断力と度胸で様々な難局を乗り越えつつ徐々に周囲の尊敬を集めていきますが、やがては幕末の動乱に巻き込まれ徳川家の最期を看取るというつらい立場に至ります。波乱の生涯を強く生きた女性で、幕末の混乱期において重要な役割を果たしたにも関らず、歴史上の人物としてそれほど取り上げられないことにおそらく宮尾登美子自身、強く不満に思ったから筆をとったのではないかと思います。揺らぐことのない強い信念にそって行動する女性という意味で、宮尾登美子と天璋院篤姫の両者のイメージがえしぇ蔵の中では重なります。歴史を動かして来たのは男だけではない、そこには常に苦しみに耐える女の姿があったことを決して忘れないで欲しいと強く訴えられた一冊でした。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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