FC2ブログ

蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

鶴田知也 「コシャマイン記」

アメリカ大陸においては先住民であるインディアンとヨーロッパからの開拓民との間での争いは西部劇などで描かれて誰しもご存知の通りですが、そういう争いが日本でもあったことは意外と知られていません。北海道のアイヌ民族がそうです。先住民であるアイヌ民族は和人に対して何度か武力蜂起しています。強力なリーダーの出現により、反乱が試みられたわけですが、コシャマインもそういったリーダーの一人です。こういうふうに書くと、ではこの作品は権力に対抗して戦う男の姿を描いた熱き物語かなと思われそうですが、実はちょっと違います。この物語のはじめではコシャマインはまだ赤ちゃんです。母親と側近によって守られながら、数々の難を逃れていくうちに成長していきます。やがて立派な男となりさぁこれからという状況になったところで、読み手としては和人への組織的な反乱を予想しますが、実際はちょっと違う展開になります。意外な感じで予想を裏切られるのが実に新鮮です。そういう点が他にはないオリジナリティなのかもしれません。この作品は第3回芥川賞を受賞していますが、なるほどそうあっておかしくない非凡な佳作です。作者の鶴田知也は福岡出身なので一見北海道とは縁遠いように思えますが、一時期北海道に渡って働いた時期があります。労働組合運動に参加したり、日本社会党に入党したり、日本農民文学会や社会主義文学クラブなどの発足に貢献したりと、プロレタリア作家的な一面がありますが、この作品における構図も実は資本家と労働者の戦いに置き替えれるのではないかと思います。単なるアイヌの英雄の物語ではなく、その裏にもっとたくさんのメッセージが含まれているように思える名作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

久米正雄 「父の死」

久米正雄は早くから才能を開花させた天才型の作家です。東京帝国大学文学部で学ぶという大物作家のお決まりのコースを経て、夏目漱石に弟子入りします。その頃に芥川龍之介や菊池寛と知り合ったことが、文壇の重鎮となっていく上で彼の才能とともに大きく働いたことは確かだと思います。師匠の夏目漱石が亡くなった後、その娘筆子に熱烈なる恋をして結婚を申し込みますが、筆子は松岡譲が好きで、ここに出来上がった三角関係は文壇史の上に一つのスキャンダルを残します。このへんの経緯は書き出すときりがないですし、久米正雄自身「破船」という作品に書き残していますのでそちらを読まれることをお勧めします。結論だけ言うと、すったもんだの挙句松岡譲に負けるわけで、彼の青春時代のドラマは全く小説顔負けといったところです。この作品は彼がまだ学生の頃に第四次「新思潮」の創刊号に掲載された作品です。彼が実際に7歳の時に経験した実話を元に書かれています。主人公の父親は小学校(女子部)の校長先生でした。非常に厳格で、職務に忠実な真面目な人でした。ある日の夜中に小使いの不注意から学校が火事になります。火勢が強く消し止めることができません。父親は御真影を燃やすわけにはいかないと火の中に飛び込もうとしますが、まわりに止められます。そして翌朝には全てが灰になっていました。当時、御真影(天皇の写真)というものは何よりも尊いものとされていましたので、父親の心痛は計り知れないものでした。責任を感じた父親はなんと割腹自殺をします。駆けつけた友人であり元藩士の老人が父親の左腹部の傷を見て、「さすがは武士の出だ。ちゃんと作法を心得ている!」と褒め称えます。壮絶な最後をとげた父親ですがこの一部始終を久米正雄は7歳の時に目の当たりにし幼心に深く刻まれ、後にこうして作品となったというわけです。まだ武士道が残る明治の日本を垣間見ることができる作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する