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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

高山樗牛 「滝口入道」

高山樗牛をご存知ですか?小説家としての作品が少ないのでご存知ない方も多いでしょう。小説家というよりも文芸評論家、あるいは思想家というほうが適しているかもしれません。明治の日本文学の黎明期においてその評論において世間に対し文学というものへの扉を開き、先導した功績は大きいです。同時に思想家としても有名ですが、その主張が日本主義に始まり、個人主義、ロマン主義、と変化し、ニーチェの影響を受けたり、日蓮崇拝に到ったりと、一貫したものがあったわけではなく、その点における世間一般の評価は低いです。そんな彼ですが、この「滝口入道」は彼の名前を小説の世界において不動にしました。東京帝国大学哲学科に在学中に読売新聞の歴史小説懸賞募集に応募し最優秀作に選ばれ、その後紙上で連載された作品です。当時は匿名で発表され、のちに出版された時にも匿名で通しました。「滝口入道」の作者が高山樗牛だったという事実を世間が知ったのは、なんと彼の死後においてです。この傑作の作者であるという名誉を敢えて避け通した彼の意中はどこにあったのでしょうか?文学評論家としての立場を考慮してのことでしょうか?えしぇ蔵だったらこれだけのものが書ければ自慢して天狗になるのは間違いないところです。作品の内容は「平家物語」に題材を得ています。高山樗牛は「平家物語」についてかなり造詣が深かったそうです。主人公の男は心も身体も鍛錬された武士の鑑のような真面目な男でしたがある女性に恋をし、それが片想いのまま実らないことを知って世を儚んで出家します。ところが実は女性のほうでも彼のことを密かに想っていましたが、悲しいかな二人の運命の糸は交差しません。一方では源氏の勢力により平家は悲惨な末路をたどりかつて主人公を取り巻いていた世界は崩壊していきます。俗世間を離れ出家していた彼ではありましたが、時代の波は彼も巻き添えにしていきます……。物語も面白いですがなんといっても美文調のほれぼれするような素晴らしさには感嘆せずにはいられません。とても大学生の作品とは思えません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

安部公房 「他人の顔」

皆さんご存知の安部公房です。それにしてもこの人の脳細胞はどういうしくみになっていたのでしょうか?どこからああいう創造性に富んだ摩訶不思議な発想が生まれてくるのでしょうか?きっと常人にはない思考回路があったのではないでしょうか。「砂の女」、「箱男」、「壁」・・・代表作はどれも他に類を見ない独自の世界です。安部公房は戦後を代表する作家の中の一人ですが、彼の作品は確かに明治・大正では有りえないタイプのものですので、ある意味昭和の日本文学の一つの形と言ってもいいと思います。作品の独自性を確立した一つの要因は科学です。東京帝国大学医学部出身ですから理系の知識は抜群です。彼の作品にはその豊富な科学的知識が大いに生かされています。今でこそ科学的な要素を含む作品はざらにありますが、戦後間もない頃には大きな反響を呼びました。この「他人の顔」の中においても背景にあるのは科学です。主人公は実験中の失敗で顔に怪我をしますが、これが二目と見られないほどのケロイドとなります。顔に包帯をして生活する毎日は次第に主人公の内面を圧迫していきます。(このへんの描写は実際にハンディキャップを負う人の心理を研究したのか非常に真に迫っています。)思いつめた主人公は自らの科学の知識を生かして人口皮膚を作ることに着手します。つまり仮面を作るわけです。街の中でであった一人の男性をモデルにして仮面を作ることに成功した彼はそれを被って別人としての生活を楽しみ始めます。これで彼の苦悩も解決して物語は終わり……というわけにはいかないのが安部公房です。彼はなんと他人になった顔で自分の奥さんを誘惑します。自分であることがバレないかを試したと同時に、奥さんの貞操も試したわけです。そこに生じる複雑な心境に新たな苦悩が生じて彼は更に苦しみます。さて、奥さんは誘惑に乗るのでしょうか?仮面であることはバレるのでしょうか?予想がつかない結末も安部公房の魅力の一つです。もうこれは読むしかないでしょ?

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