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蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

武田百合子 「犬が星見た」

武田百合子は、あの「ひかりごけ」で有名な武田泰淳の妻です。神田にあった、文学者が多く集まるバー「らんぼお」で働いている時に泰淳と知り合い、結婚します。えしぇ蔵は当初、百合子の作品が有名なのは泰淳の名声に助けられてのことだと思っていましたが、とんでもないことでした。彼女の実力はこの作品を読めばすぐにわかります。日々の出来事を自分の感慨を交えながらストレートに飾り気なく書いてありますが、誰の目線も気にすることない泰然自若とした文章は非常に評価に値するものとなっています。実際に多くの作家がこれを高く評価しています。この作品は泰淳と一緒に行ったロシア旅行の記録です。昭和44年6月10日に横浜を出港し、ハバロフスクからソ連に入り、イルクーツクやタシケント、レニングラードなどたくさんの街を経由して、スェーデンのストックホルムに抜けるまでの旅を、日々食べたものにいたるまでこと細かに書いています。ツアーなので他の客との交流がユニークに描いてあるのも魅力です。友人の竹内好(文芸評論家)や、お金持ちの銭高老人(当時の銭高組の会長)などとの会話はかなり笑えます。日々の出来事も、情景描写も、会話も、感想もすべてその文章は評価されようという姿勢は微塵もなく、全くの”素”で書いてあり、それが逆に彼女の実力を読者に認識させる結果になっています。そしてその大らかな、飾らない、動じない性格が文章から感じとらます。誰しも彼女の人間性に惹かれてしまうと思います。泰淳は彼女の人間性に大いに影響されたとのことですが、誰でも一緒にいればそうなるだろうと思います。この作品はいわば彼女自身を表現したものと言えるかもしれません。芸術というものは意図しないものほど次元の異なる領域に達するような気がしますが、この作品がその一つの例ではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

福永武彦 「世界の終わり」

福永武彦という作家は日本の文学の発展の上において必要な人であったと思います。それは、ものの見方、考え方に多くの人とは違ったものを持っていたからです。黒が上になったオセロの駒をみんなして黒だ黒だと言っている時に、裏側はどうなんだろう?裏側は黒じゃないのかもしれない、ひっくり返してみよう、あ、裏側は白だった!という思考及び実行を特徴とする人だからです。そういう人が小説を書くと非常にユニークなものが出来上がるというのは想像できることです。そのいい例がこの「世界の終わり」です。ストーリー全体を説明するとすれば、徐々に精神に異常をきたす奥さんを持った男の話で、特に何が面白いのか?と思ってしまいそうですが、面白いのはストーリーではなくて書き方です。第1章は「彼女」というタイトルになっており、彼女の内面における思考を描いています。外側から見ると精神的に異常な人ですから、それは全く非現実的で幻想的です。摩訶不思議な世界が広がっているわけです。夕焼けを見て空が燃えていると思い、世界が終わってしまう恐怖にかられ、急いで家族に知らせようとします。第2章は「彼」です。妻の異常に悩む男の苦悩を描いています。そして第3章が「彼と彼女」。過去の二人の出会いの場面や、彼女の異常にまわりが気付き始めた時などの過去の回想が描かれています。そして最後の第4章は再び「彼女」になり、第1章の続きが描かれます。第2章と第3章は奥さんを取り囲む外的世界を描いており、第1章と第4章は奥さんの内面世界を描いています。精神異常の人を外から観察して書いたものは多いですが、こうして本人の内側からの視線をも合わせて描いたというのが非常に面白い手法だと思います。対比して読み比べるといいと思います。オセロの駒の両面を描いた福永武彦ならではの傑作です。

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