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蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

壷井栄 「暦」

名作「二十四の瞳」で小豆島を有名にした壷井栄ですが、出身地も小豆島で、あの牧歌的に描かれた自然と人はそのまま壷井栄自身が育った環境でもあります。一家はなんと11人兄妹!今の日本ではそれだけでニュースネタになりそうですが、昔の田舎における日本の家族ってこんな感じですよね。家業は醤油樽の製造で、弟子や職人を抱えて一時期は結構羽振りもよかったようですが、お得意さんの醤油醸造元がつぶれて以来、そのあおりを食って家産は傾いていきます。家も土地も手放して最後は借家に移り、成長した子どもらが働いて家計を助けるというところまでいきました。彼女も郵便局や村役場で働いています。様々な苦労を経験した後、彼女は夢を抱いて上京します。そして壷井繁治との結婚を機に運命が花開いていきます……。この作品はそんな彼女の人生経験を基にして書かれた作品です。創作ではありますが、一家の生活の様子は彼女の記憶をたどって、ほぼそのまま描かれたような印象を受けます。ストーリーとしては、かつての幸せが過去のものとなり、次第に細くなっていく家運の中、最後に残った二人の姉妹が踏みとどまって頑張って生きている姿を描いています。そして成長してそれぞれの道を歩んで離れて行った兄妹を呼び集め、祖母の十七年忌、父の三年忌の法事をするシーンがクライマックスとなっています。壷井栄の作品の底流に流れているのはいつでも”愛”です。それは実に大きくて温かいものです。この作品で描かれているのは単に一家族の盛衰ではなく、その離れがたい強い結びつきの上で続いていく日々の暮らしです。要するに日本にかつてあった大きく温かい家族の暦なわけです。読んでいくと悲しいシーンも多いですが、でもどこか優しく心温まる感じが最後に残るところはまさに壷井栄ワールドだなと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

野間宏 「真空地帯」

全体小説という手法を以って、社会全体に対して正面からドカンとぶつかっていくのが野間宏です。社会が抱える問題、特にその中における弱者の立場になって、大きな敵に対して敢然と立ち向かう姿は、作家の在り方の一つの見本を見るようで非常に参考になります。基本的に”弱者の味方”的な考えを貫く人ですが、そんな彼でも戦争中は兵隊に行かなければならないわけです。あの非人間的にしか扱われない集団の中で、彼が強い反感を持たないわけがありません。しかも一時期は社会主義運動をした過去のことを追及され、半年も大阪陸軍刑務所に服役させられます。おそらく想像を絶するひどい扱いを受けたことでしょう。その怒りもあってか、戦後発表されたこの作品では軍隊の中の非人間的な日常を赤裸々に描いて強くその異常性を訴えています。物語の舞台は軍の兵営の中です。いわゆる軍事基地ですね。そこでは兵隊の訓練を中心に、厳しい規律に縛られた日々が送られています。兵士にはたまに生き抜きの時間が与えられ、基地の外への外出が許されますが、主人公はそれができません。なぜなら彼はかつて軍の中で窃盗を働いた罪でしばらく軍の刑務所に服役し、出所して原隊復帰した身だからです。彼は刑務所帰りであることを隠しつつ、自分を軍事裁判へ送った憎き上官の消息を探ります。彼の中では復讐の炎が燃えさかります。やがてはその上官と再会することができ、いざ復讐の鉄拳を下ろそうとしたその時、彼は上官に窃盗事件の始末の驚くべき真相を聞かされます……。この作品は長いですけど緊張感が続くせいか、サスペンスタッチのストーリー展開のせいか、読み始めると止まりません。軍隊生活の様子や刑務所での過酷な扱いは野間宏の経験が生かされて非常にリアルに描かれています。軍隊の非人間性を訴えつつ、ストーリーの面白さも追求しているという、あまりないタイプの傑作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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