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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

北原武夫 「妻」

北原武夫という作家をご存知ですか?もしご存知なくても宇野千代はご存知でしょう?北原武夫は宇野千代の旦那です。宇野千代は他に尾崎士郎や東郷青児など、錚々たる人々と浮名を流していますのでその中で埋もれがちではありますが、1939年に結婚して1964年に別れるまで、結構長い期間二人は夫婦でした。その間に日本で最初のファッション雑誌「スタイル」を創刊します。今や日本にはファッション雑誌は数え切れないくらいに発行されていますが、これが最初なんですね。宇野千代は当時のファッションセンスのリーダーだったわけです。北原武夫は作家業のかたわら、雑誌の仕事も手伝います。ところが業績悪化で倒産しちゃうわけです。負債だけが残り、北原武夫はとにかく作品を書きまくって返済することを義務づけられます。嫌も応もないわけです。それで北原武夫の作品を見ると、後半は通俗作品が多くあまり見るべきものがない印象を受けます。しかしこれは彼にとっても本意ではないわけで、本当はここで紹介するような文学作品を書きたかったのだと思います。もし北原武夫の作品を読むのであれば、昭和30年以前に発表された作品が絶対的にお勧めです。この「妻」は昭和13年の芥川賞の候補作となった作品です。これが彼の文壇デビューのきっかけとなりました。作品の内容としてはありがちな情痴小説であり私小説なんですが、主人公(北原本人)が、前半は最初の妻に対して、後半は宇野千代に対して抱く心境の変化を克明に表現した心理小説でもあります。自分の心理の変化をここまで冷静に分析して書けるというのはなかなかできるものではありません。まるで科学者のように正確に捉えて表現しようという姿勢には敬意を抱かずにはいられません。また、ゴシップ的な要素があることも事実なんで、宇野千代の一面を知る上でも面白い作品ではあります。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

丸岡明 「生きものの記録」

小説という一言で片付けてしまえば実に単純なものに思えますが、この中には非常に多くの種類が含まれます。人間は長い歴史の中でこの小説というものを様々な角度から研究し、新たな形を模索し続けて来ました。現代ではこれといって大きな変革は見られませんが、昭和中期ぐらいまではいろんな作家がこれはどうだ、これはどうだ、と新たなものを世の中にぶつけてきました。その中の一つに心理小説というものがあります。これはフランスに端を発したもので、日本では丸岡明のこの「生きものの記録」はその一例としてよくあげられます。心理小説とは、人間の心理状態を詳細に分析し表現して、登場人物の内面の動きを物語の中心におくというものです。Aという人物にはある確固とした考えがあった。一方でBは違った意見を持っていた。反発しあうAとBだが、やがてAはBの意見に傾倒していく。CはAと同意見だったのにAがBよりになったのでAとCの間に溝ができる・・・一例をあげればこういう心の変化そのものを物語の展開の中で軽く流してしまわないで、深く掘り下げて細かく表現していこうとするものです。心理的な動きを目立たせるために舞台背景の自然や建物、登場人物の容姿・服装、絡んでくる歴史的文化的素材の詳細な説明などは極力省いてあります。いわば極めてシンプルな絵柄の掛軸を見るような、非常に美しい花の一輪挿しを見るような、単純に見えて実はかなりの奥行きがある作品が多いです。この「生きものの記録」は軽井沢が舞台です。避暑に来るようなブルジョア層の人々がひと夏の間に経験する出来事の中で、それぞれがどういう心理的変化をたどるかに注目して読んでいくと非常に楽しめます。やはりどこかフランスの作品を読んでいるような感じがしてきますよ。

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