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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

火野葦平 「麦と兵隊」

火野葦平は北九州が生んだ偉大なる作家です。「糞尿譚」で第6回芥川賞を受賞したのを皮切りに、戦争体験をもとにした作品「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」などの作品によって、戦時中は押しも押されもせぬ人気作家になります。作品があまりに軍部に協力的であったということで、戦後は戦犯作家とまで言われ一時は公職追放という憂き目にあいますが、それが解除された後は再び返り咲いて人気作家の地位を取り戻します。ここで紹介する「麦と兵隊」は、昭和12年から日中戦争に応召した際の一兵隊の体験をリアルに描いた戦争記録文学です。えしぇ蔵は昭和43年生まれなので戦後23年も経過した後の世代ですから戦争がどういうものであったかは本や映画や体験者の話から想像するしかないわけですが、この作品を読めば出征した後どうなるのか?毎日どんな生活をしていたのか?戦闘中はどんな心理状態なのか?など、非常によくわかります。それぐらいリアルに描かれた作品です。圧巻は孫扞城というところで野営していた時に、敵の大逆襲を受けるシーンです。よほど凄まじい戦闘だったのでしょう、それをなんとか詳細に表現しようと彼は戦闘中もメモをとったりしています。非常に不利な状況になり、敵の迫撃砲弾が真上から落ちてくるようになってからは周りの仲間がバタバタと死んでいきます。直撃をくらえば即死です。増え続ける死傷者、間断のない銃撃、恐怖を伴う砲撃、到着が遅れる援軍……もはやこれまでかという場面が何回かあります。なんとか彼は負傷者を連れて脱出に成功し、後方に逃れます。このシーンはまったくハリウッドの戦争映画を見るよりもハラハラしました。そんな悲惨な目にあっても、戦闘が終わればまた生き残ったものは集められて、麦畑の中を進軍していきます。なるほどこれが戦争というものか、最前線の修羅場というものか、と強烈な刺激とともにその実態は心に刻まれました。非常に多くのことを学んだような気がしました。やがて日本から出征体験者がいなくなろうとしていますが、そんな時代においてはこういう文学が一つの戦争の証人となるのではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

大岡昇平 「花影」

女性を描くことが巧みな男性作家は決まって大家です。逆に言えば女性をうまく描けることが文豪と呼ばれるために必要な要素なのかもしれません。永井荷風しかり。太宰治しかり。そして忘れてはならないのが大岡昇平です。なぜそこまで深く女性の心理を理解できるのか、そしてそれを巧みに表現できるのか、不思議で仕方ないです。この作品などは、もし作家の名前を知らずに読んだとすれば、誰しもきっと女流作家の作品に違いないと思うことでしょう。それほど女性の思いを代弁している作品です。文章も美しく、どことなくしっとりした感じがあってこれまた女流作家のようです。ただストーリーを追うだけではもったいない名文です。ストーリーは戦後の人心荒廃し、世情混沌とした社会の中で寂しく生きる女性の儚い生涯を描いています。戦後の女性たちは、甲斐性のある男性に嫁いだ人は別ですが、そうでない人は生きる糧を得るために自らの美を売り物にしていくしか術がなく、多くの人は風俗業やバーなどの水商売にたずさわりました。バーで働いてるうちにお金持ちの”旦那”を見つけ、家を買ってもらったりお店を持たせてもらったりすれば成功したことになりますが、それはごく一部であり、ほとんどはそのまま年齢を重ね、自分の容姿の衰えにおびえながら細々と生きていくしかありません。主人公も何度か頼れそうな男性を見つけますが、毎回落胆させられます。多くの男性にただ翻弄されるだけで、ついには希望を見失います。追い求めた幸せをつかむことができずに最後の手段を選ぶ悲しい人生が淡々と描かれています。抑揚のない描き方が薄幸の女性の虚しい生き様をよりリアルに感じさせます。作品自体の価値が高いのはもちろん、こういう人生を送った女性が戦後は多かったということを知る上でもいい作品だと思います。男女問わず読んで頂きたいです。

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