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蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

夏目漱石 「それから」

夏目漱石には前記三部作というのがあります。「三四郎」、「それから」、「門」がそれにあたります(ちなみに後期三部作は、「彼岸過迄」、「行人」、「こころ」)。この三つは登場人物も環境も全く異なるので、それぞれ別の作品として完全に成り立ちますが、続けて三つ読むとなんとなくつながっています。全く別物かな?いや、やっぱりなんか関係してるかな?という感じの、この微妙なつながり方がなんとも絶妙で、はっきりとした連作にしないところに天才の手腕を垣間見る気がします。ストーリーとしてどういう流れでつながっているかはネタバレになるので書きませんが、この三つの中で一番盛り上がるのがこの「それから」です。一番ドラマティックな展開があります。三つ読むのは面倒だという方は是非これだけは読んで下さい。働かなくても実家から貰うお金で悠々と生活できるお金持ちのぼんぼんが主人公です。退屈な日々の中、呑気に独自の屁理屈を振り回して過ごしています。一方、その親友はいい会社に就職し、美しい女性と結婚もして前途洋洋たる様子です。ところがやがてその親友の人生に狂いが生じます。会社を辞めて生活にも苦労し始め、奥さんとの間も冷えていきます。そんな二人を主人公は心配しますが、いつしかそれは奥さんへの想いに変わっていきます。精神的にも肉体的にも疲労を重ねていく奥さんを助けてあげたいという想いは熱烈な愛情へと変化し、主人公は懊悩します。何も知らない実家からは政略結婚的な縁談を勧められ、その断る理由にも悩みます。もし親友の奥さんを奪うなんてことをすれば実家から見放されて経済的援助を打ち切られるのは目に見えています。それでも我を通すのか?親友に奥さんへの愛を打ち明けることはできるのか?追いつめられた主人公の決断は如何に?そして最後はドラマティックな展開を残して作品は終わります(そして「門」を読むと、関係ない環境でありながらその後のことがなんとなくわかります)。初めて読んだ時は「どうするんだろう?どうなるんだろう?」とドキドキしながら読んだものです。個人的に前記三部作の中の一押しです。是非読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

林房雄 「獄中記」

「獄中記」というタイトルからもわかるように、刑務所での日常を綴った手紙形式の作品なんですが、おそらくほぼ100%林房雄の実体験だと思います。1926年、学生だった彼は「京都学連事件」で検挙され、最初の刑務所生活を経験します。その後プロレタリア作家となり、1930年に治安維持法違反で再び刑務所生活です。一旦下獄し、1934年にまた入ってます。この物語は2回目と3回目の刑務所生活の時の手紙をもとにして書かれています。非常に主張が強く、頑固な一面のある人なので妥協することを良しとしなかったからこういう体験をすることになったのかどうか、そのへんの真相はよくわかりませんが、そういう強さが彼の内面にあったことは、刑務所生活を無事に乗り越えるための大きな支えになったことは間違いないと思います。それはこの作品を読み進んで行くとよくわかります。日々の心情が奥さんに出した手紙の文章の中に克明に表現されています。時に怒りや悲しみを記した部分もありますが、概ね前向きに、多少楽天的に書かれており、刑務所の中という絶望的環境にありながらそんなに荒れていたふうには感じられません。孤独や束縛からストレスが生じ、悲しみにうち沈んだり、怒りに荒れ狂うというのが普通の服役者によく見られるパターンですが、彼は実に落ち着いた印象を受けます。淡々とした語り口で綴られています。読みながらしみじみ「この人は強い人だ」と感じました。えしぇ蔵だったらおそらくこんなに前向きに強い意志を持ち続けることはできないだろうと思います。林房雄のそういう人間的な強さには敬服せずにはいられません。この強さが文章においても行動においても彼を抜きん出た存在にしたことは間違いないと思います。三島由紀夫があこがれたというのもわかるような気がします。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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