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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

尾崎士郎 「人生劇場」

この作品は尾崎士郎の出世作でもあり、代表作でもあります。1933年に都新聞に連載された時に好評を得て、本もベストセラーになりました。それ以来、その続編という感じで次々と書き継がれていきます。ここで紹介するのは主人公の幼年時代から、青雲の志を持って社会に出るまでの部分で、「青春編」と言われています。その後に発表されたのが、「残侠編」、「風雲編」、「遠征編」、「夢現編」、「望郷編」、「蕩子編」です。全部あわせるとかなりの量になります。「人生劇場」全編をとおして言うなら、この作品は尾崎士郎にとってまさにライフワークです。尾崎士郎自身、この「人生劇場」という言葉に非常に愛着を持っていたそうです。主人公の幼い頃の話に始まり、けんかありの、恋愛ありの、家庭のごたごたがありの、受験がありの、大きな夢がありの、楽しいこと悲しいこと、もろもろの山や谷を越えて一人前の大人になり、社会に巣立っていく一人の人間を描くというストーリー展開は、日本文学はもちろん、世界中の文学においても多く見られます。そしてそのどれも面白く読めるものです。それは、自分の人生と重ねながら、自分が歩いてきた道を振り返ってそれと比較しながら読むので、主人公の思いを共感できるからだと思います。だから読みながら応援してしまうんですよね。この「青春編」だけでも結構長いですが、夢中で読み進んでいけます。ただ他と違う特徴として、少し任侠の世界が混じっています。ですが今時の弱いものいじめをする社会悪としてのそれではなく、かつての”曲がったことには我慢がならない”、”男の誇りは死んでも守る”、”受けた恩は一生忘れない”的な、あの昔懐かしい任侠の世界ですから、さっぱりしたものがあってこれはこれで作品に特徴を持たせてていいものです。尾崎士郎の名作、あなたの人生劇場を思い浮かべつつ読んでみてはいかがですか?

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

獅子文六 「達磨町七番地」

獅子文六とくれば滑稽小説です。個性的でユーモラスなキャラクターがいろいろ登場して、おもしろおかしくストーリーが進んでいくという作品が多いです。なにしろペンネームの発想からして滑稽極まりないところです。文六というのは、文豪の上をいきたいという意味だそうです。ぶんごの上だからぶんろくです。これだけでもこの作家の人柄が少しわかるような気がしませんか?この小説の舞台はパリです。なぜパリか?獅子文六は演劇が好きで、その分野でも活躍しました。ちなみに演劇においては本名の岩田豊雄で活動しています。岸田国士や久保田万太郎と劇団文学座を始めたりしています。若い頃から演劇に魅せられていた彼は、大学を中退してフランスまで演劇の勉強に行きます。この作品はその頃の経験を生かして書かれていますので、フランスにおける日本人留学生たちの生き様が非常にリアルに描かれています。フランスに初めて渡った時に多くの日本人留学生が最初に選ぶ下宿において、ドタバタ劇が演じられます。他の留学生はフランスでの暮らしに慣れてくるとその下宿を出てよそに移るのに、範平さんという人は長年そこに主のように住んでいます。この人は大変な国粋主義です。一方で新しく下宿に仲間入りした中上川さんは国際主義です。部屋が隣どうしなので最初は仲良くしていた二人ですがある日、中上川さんが自殺しようとしているフランス人女性を助けて下宿に同棲するようになってから二人の間には溝ができます。その後ある事件をきっかけに二人のそれぞれの考えに変化が現れます……。1920年代のパリに留学した日本人たちのドタバタ劇。獅子文六らしい作品をどうぞお楽しみ下さい。

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木山捷平 「初恋」

木山捷平は最初は詩で文学の世界に入ってきます。彼の詩は叙事的で小説のような内容を持ったものだったので友人に小説も書いたらどうかと勧められて別の才能の花を開かせます。この作品は小説における処女作です。以前は「うけとり」という作品名でしたが、のちに「初恋」に改題されました。”うけとり”というのは岡山県の方言だそうです。意味は、農事や家事などの作業にある一定の責任量を決めて、それをこなすことで相応の賃金をもらうというものです。主人公の少年は貧しい農家の子どもなので学校が終わって帰宅してから自由な時間などなく、すぐにこのうけとりをさせられます。彼がいつも帰宅してからやるうけとりは、山に行って枯葉を集めることでした。ある日、山の中で一人で枯葉を集めていると雨が降ってきたので樹の陰で雨宿りをしていたところ、そこに彼が密かに想いを寄せている女の子が偶然来合わせます。彼女も同じように山で枯葉を集めている最中でした。一緒に雨宿りしたことがきっかけとなって二人は心を通わせ、うけとりの作業にかこつけて山で密会を重ねるようになります。しかし幸せな時期は続かず二人の密会は噂になり、ある寺の壁に二人の仲を揶揄する落書きが書かれます。二人はその落書きを消しますが何度消してもまた書かれます。学校ではこの落書きが問題になり、なんとその犯人として少年が疑われてしまいます。冤罪で怒られた彼は自棄になりある行動に出ます。ストーリー的にも実に面白い傑作です。でも木山捷平と言えば「大陸の細道」や「耳学問」などに見られるような作風が彼のスタイルと思っている人が多いので、この作品を読むと「え?」と思われるかもしれません。どこか彼らしくない真面目さというか、固さがありますのでそのへんは考慮に入れて、「へぇこんなのも書いてたんだ」という感じで読んでみて下さい。

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