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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

岩野泡鳴 「放浪」

岩野泡鳴のいわゆる五部作と言われる中の三番目にあたる作品です。五部作とは、「発展」・「毒薬を飲む女」・「放浪」・「段橋」・「憑き物」のことを指し、この作品は「毒薬を飲む女」の続編ということになります。家族も愛人もほったらかしにして蟹の缶詰工場を作るという事業のために北海道からさらに樺太へと渡ったのはいいけど思うような結果を得ることができず、何か新規巻き返しの策を練るために樺太から北海道へ戻り、さてどうしよう?と途方にくれているところから話が始まります。友人知人の家に居候しながらいろいろな策を練り、根回しをするわけですがどれも実りません。そのうちに工場のほうもダメになっていきます。そんな状況でもしっかり色町には遊びに行くわけで、そこである芸者といい関係になります。東京に奥さんと子どもを残し、愛人も残し、それなのに北海道でまたこのざまです。そしてそれを包み隠さず書いてしまうこの人も度胸あるなぁと変なところで感心してしまいます。小市民的一文学者がばたばたと人生にあえいでいる姿を描いた作品です。文学的なテクニックにおいては五部作のどれもそうですが、彼お得意の三人称一元描写で描かれています。これは簡単に言うと三人称で書くのに、作者が代弁するのは主人公の気持ちだけで他の人の心情は表現しないというもので、要するに三人称でありながら独白のような形式です。この表現方法を確立したということで彼の名は永久に文学史から消えることはありません。そんなすごい人なんですが、どうもビジネスにおいては才能がなかったようですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

井上靖 「闘牛」

皆さんは井上靖の名前を聞くと、文学小説の作家と思いますか?それとも大衆小説の作家と思いますか?もし多くの人の意見を集めたら結構票が分かれるのではないかと思います。作品をいくつか読まれるとわかると思いますが、非常に分類の難しい作家です。文学性は高いと思うんですが、ストーリーもしっかり面白くて、一般的な文学小説のように表現を楽しみながらじっくり読むというより、面白いので一気に読んでしまうことが多いです。逆に言えば絶妙な立ち位置にいる作家ということになるのでしょうか。井上靖は若い頃に懸賞小説で入選したことがありますが、その後新聞記者生活を14年も続けたので本格的にデビューしたのはかなり遅く、次に書いた「猟銃」の時は既に42歳でした。そしてこの「闘牛」を書いて、見事第22回芥川賞を受賞したのが43歳の頃です。遅咲きの部類に入るとは思いますが、それだけに人生経験を積んだ後の作品なので完成度も高く、ベテランの風格さえ感じます。この作品もやはりストーリーが面白いのが大きな特徴です。「闘牛」といってもスペインのように牛と人が戦うのではなく、牛と牛を戦わせるものです。主人公は新聞社に勤めていますが、社の一大イベントとしてこの「闘牛」を企画します。なんとか成功させるために奔走する毎日が始まります。開催日が近づく間、様々な準備が必要ですが、次々に起こるトラブルにも頭を悩まします。おまけに開催できる日程が変更できないので当日雨が降ると中止となり、社に多大な損失を負わせることになります。いろんな人々の思惑も絡めつつ、イベントが成功するかどうかのハラハラとさせる展開が見事です。率直な感想としてはやはり面白い!ということです。読ませます。その後、名作を次々に発表しますが、やはりどれも面白いことは共通しています。井上靖はノーベル文学賞候補にもなったことがありますが、なるほど欧米の人にも好まれそうな作品が多いです。最近こういうタイプの作家があまり見受けられないのはちょっと寂しいですね。皆さんも是非、”面白い文学小説”の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょう?

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

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