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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

石川啄木 「一握の砂」

日本人で知らない人はほとんどいないでしょう。明治の偉大なる歌人です。学校でも習うのでもうここで説明する必要もないくらいでしょうけど簡単にご紹介します。石川啄木は明治19年に岩手県で生まれました。本名は一(はじめ)です。文学史に名を残す作家たちはほとんど学生時代の成績はいいのですが、この人はそうよくはなかったようです。むしろカンニングはするし、欠席も多いし、ついには退学させられたりと、今で言えば完全に不良です。そういう彼を文学の道に目覚めさせたのは「明星」という雑誌です。そこに掲載されていた与謝野晶子の短歌に影響されたという話です。天性のものがあったからでしょう、それからはめきめきと実力をつけ、文壇でも認められるようになります。そして24歳の時にこの「一握の砂」を刊行します。彼の第一歌集です。ところが天才にありがちの運命が彼を待っています。肺結核が彼の人生を奪ったのはなんと26歳の時です。「一握の砂」発表からわずか2年です。当然そんなに作品は残せていません。第二歌集の「悲しき玩具」や、小説「我等の一団と彼」などは死後に刊行されました。なんとも悲しすぎる天才の生涯でした。しかし残された作品の内容は濃いです。この歌集には有名な短歌も含まれています。
「東海の小島の磯の白砂に吾泣きぬれて蟹とたわむる 」
「たわむれに母を背負いてそのあまり軽ろきに泣きて三歩あゆまず」
「はたらけど はたらけど猶 わが生活 楽にならざり ぢっと手を見る 」
「悲愴」「寂寞」「孤独」「虚無」・・・そういう心情を表現した短歌はストレートに胸を打ちます。本棚ではなく、机の上などの身近なところに置いておきたい歌集です。

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夏目漱石 「倫敦塔」

夏目漱石は明治33年5月に文部省からイギリス留学を命ぜられます。彼が熊本の第五高等学校の英語教師をしている時でした。本場イギリスで英語教育について学んで来いというわけです。日本を代表して政府に選ばれたわけですから、彼の優秀さが想像できます。こうして約2年間の留学生活が始まりますが、この作品はイギリスに来てまだ間もない頃に一人でふらりとロンドン塔を観光した時のことを、数年後に回想して書いたもので、明治38年に発表されています。この作品の特徴は、紀行文のような形式をとりながら、そこで見たものをきっかけに空想の世界が広がるという部分が度々出てくることです。つまり、紀行文のパートと歴史小説のパートが交互に現れるような形になっていて、非常に興味深いものがあります。空想の世界で登場する人物の顔をよく見ると、さっき見た子連れの女性の顔だったりして、現実と空想が融合して不思議な感覚を誘います。でも最後は下宿の主人におちをつけられてユーモラスに終わります。夏目漱石ともなれば由緒ある歴史的遺物をこういう感慨をもって見るんだなと思うと、妙に感心させられてしまいました。おそらく自分なら見物したものに対して、一瞬は古に想いを馳せて感慨を持つことでしょうけどすぐに忘れてしまうと思います。紀行文もただのレポートになってしまうのが常です。それが天才にかかればこんな深い作品に仕上がるわけですからね。やはり脳みその質から違うのでしょう。それにしてもこの作品に限らないことですが、他の追随を許さない美しさを持つ文章には本当に圧倒されて言葉も見つかりません。あ、この箇所いい!と思って何度も読み返すことが何度もありました。だから短い作品ですが時間をかけてじっくり読みたくなります。この作品はある意味紀行文の最高峰かもしれないと個人的に思いました。

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