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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

横光利一 「上海」

この小説の舞台は1920年代の上海です。この頃の上海は実に興味深い状況にあります。東洋のパリと言われるまでに繁栄しており、様々な民族様々な文化が流入し混在していました。イギリスを筆頭に列強各国の資本も投入され企業は多数進出する一方で、ロシア革命から逃れて没落した上流・中流階級の白系ロシア人も多く存在しました。いわば類の異なる人間を同じ街に詰め込んだらどうなるだろうか?と誰かが実験でもしているような混沌とした社会を形成していました。横光利一が芥川龍之介に勧められて渡った上海はそういった状況にありました。そんな街を目の当たりにすれば彼でなくとも創作意欲はそそられたことだろうと思います。上海ではちょうどこの頃、1925年に「五・三〇事件」が起こります。これは、日本資本の綿紡績工場の争議中に死傷者が出たことをきっかけとして徐々に抗議活動が拡大し数千人規模のデモにまで発展し、それを鎮圧しようとして更に死傷者が出た事件です。この事件はその後の反帝国主義運動にまでつながっていきます。横光利一はこの「五・三〇事件」を物語の背景としています。展開もスリリングで、かつ他の作品同様風景描写が素晴らしく、ストーリーも面白いです。映画にしたらさぞかし大作になりそうな感があります。とにかく最初から最後まで楽しめる文章の巧みさには全く舌を巻いてしまいます。洗練された美しさと磨かれた知性と嫌味のないかっこよさがあります。これぞ新感覚派の文章です。大衆小説的面白さがあって、しかもこの文章ですからこれ以上何を求めるべきでしょうか?えしぇ蔵的には横光利一の代表作の中でも特に秀逸なのではないかと思います。絶対的にお勧めします。是非読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

山本謙一 「花鳥の夢」

山本謙一の作品は初めて読んだ「利休にたずねよ」で魅了されて以来、かなり読みました。本屋に行った時にはまず「や」のところに行って、読んでないものがないかチェックするのが癖になってるぐらいです。この人の作品は時代を動かした英雄たちに絡ませて、同じ時代を生きた異なる分野の人を描いているものが多いです。この作品の主人公は安土桃山時代の狩野派の絵師として永遠に名を残したご存じ狩野永徳です。「洛中洛外図屏風」や「檜図屏風」などで有名です。そしていずれも残っていませんが、安土城の障壁画、大阪城の障壁画、聚楽第の障壁画も描いています。当時の代表的な建築物を飾る絵を全て任されたことからも、当時の狩野派の勢いと狩野永徳の実力を知ることができます。生涯をかけて絵の道を究めつくそうとした永徳の人生ですが、描く楽しさから始まったものが、いつしか描く苦しみとなり、大好きだった絵は永徳の健康を蝕むほどになっていきます。そんな彼の前に現れたライバルの長谷川等伯は楽しみながら絵を描き、永徳に衝撃を与えるほどの作品を仕上げます。自分にないものを持つ等伯への対抗心にも苦しめられますが、必死にそこから新たなものを学ぼうとします。まさに壮絶な絵師の一生です。細かいところでは襖や屏風に絵を描いていく手法が説明されているので、技術的な意味でも興味深いものがあります。いつの時代にも芸術に命をかける人はいますが、その生き様はいづれも壮絶なもので、命の力というものを教わるような気がします。えしぇ蔵はこれを読んで、現存する永徳の絵を直にこの目で見たくなりましたが、きっと皆さんも読まれたら美術館に足を運ばれることでしょう。芸術への導きにもなるので、こういった作品は是非多くの人に読んで頂きたい思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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