蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

海音寺潮五郎 「武将列伝」

日本の歴史に登場する人を尊敬しているという人に、何がきっかけで尊敬するようになりましたか?と聞くとほぼ100%の人が歴史小説と答えます。例えば坂本竜馬を尊敬する人は多くの人が司馬遼太郎の「龍馬がゆく」を上げます。こういった現実に対してえしぇ蔵は本当に声を大にして訴えたいものがあります。歴史小説というのは小説ですから。史実をベースにはしていますが基本的に作り話ですから。エピソードに感心してもそれは作家が創作したものであったりするわけです。知らぬ人はいない豊臣秀吉には幼少の頃からたくさんのエピソード(ご主人様の草鞋をふところで暖めた……等々)があります。ところが実際にはどうでしょう?信頼できる資料に秀吉が初めて登場した時には既に織田の家中で一方の侍大将になっています。つまり前半生のことはほとんどわからないんです。生まれた年、本当の親すらわかりません。実際はそんなものです。本当にその人物に興味を持ったのなら小説ではなく歴史書や研究本などで調べるべきです。実像は小説の中の人物とは大きく異なることは多々ありますから。まぁそうは言っても難しい専門書を手にするのはちょっと、という方にお勧めなのがこの作品です。海音寺潮五郎は「史伝文学」の代表者です。「史伝文学」とは、フィクションを加えず、歴史の真実を探ろうとするものです。この「武将列伝」には、平安時代の源義平に始まり、近代の勝海舟まで、日本史を飾った人物たちを冷静に分析して記述しています。各人の様々なエピソードを、間違いない事実、信用できること、信用できないこと、全くのデタラメなどに見究めて、最終的に本当の人物像を海音寺潮五郎なりに結論付けています。歴史の真実を知りたいという方には強くお勧めします。文春文庫で全6巻です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

宮城谷昌光 「楽毅」

もし誰かに宮城谷昌光の作品はどういうものか、あるいはどの作品から読み始めたらよいかと尋ねられたとすれば、まずはこの「楽毅」を勧めると思います。この作品には宮城谷昌光の作品全体に共通する特徴、それはつまり魅力とも言えますが、それが最も多く含まれているのではないかと思うからです。その持てる力を余すところなく発揮した感がある作品だからです。この作品は中国の戦国時代の武将である楽毅の生涯を描いています。まずこの楽毅を選ぶところが宮城谷昌光的だと言えます。一般にはそれほど知れ渡ってはいない英雄の姿を掘り出して、作品の上で再び輝かせ多くの人にその存在の大きさを知らしめるというパターンですね。古代の中国には小さな国がたくさんありましたが、戦国時代(紀元前403年~紀元前221年)には中山という小さな国がありました。楽毅はこの中山の武将で、国を守るために八面六臂の活躍をしますが、君主が愚昧で弱小な国なのでその努力が報われません。しかし寡をもって衆に立ち向かうその見事な戦いぶりは一気に楽毅の名を広めることになります。中山が滅びた後は新天地を求めて流浪の身になりますが、最後はついに燕の国にその才能を発揮する場を得ます。そして再び歴史に残る活躍をします。知的でかつ剛勇無双、そして家族に愛され部下に慕われる優しさも持っており、まさに理想のリーダー像がそこにはあります。いい人材はそれを認めて使ってくれる人に出会えるかどうかで大きく差が出ます。楽毅の場合は燕の君主がそうでした。思えば実生活においても自分を認めてくれる師や上司に出会えるかどうかは人生に大きく影響します。楽毅と燕の君主の関係にその理想を見るように思います。楽毅という人物から学べることは多いです。皆さんにも是非知って頂きたいです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

太宰治 「ヴィヨンの妻」

太宰治の作品の中でも特に評価が高いのでご存知の方も多いと思いますが敢えてご紹介します。えしぇ蔵は自分でも小説というものを、極めて拙いですが書くことがありますが、この作品を読んだ時には「あぁ自分には小説なんて書けないんだな」と強制的に認識させられました。こんなすごいのは自分には無理と思いながら一気に読んで、読み終わった後に大きなため息が出ました。太宰治とは如何なる者ぞと思う方はこの作品一つで十分にわかるのではないかと思います。無駄がなく構成のしっかりとした物語が、テンポよく進んでいきます。登場人物の心理は明確に把握できますし、読者の心にどっしりと重いものを置いていく感じはさすがです。何より女性の心理の描き方が素晴らいく、この点は他の追随を許しません。おそらく多くの名を成した男性作家の中でも女性の気持ちが一番わかっていたのは太宰治ではないかと思います。ストーリーは例によって家族も養えないようなろくでなしの男が主人公です。この男は詩人で、作中で書いた論文のテーマが15世紀のフランスの詩人フランソワ・ヴィヨンだったので、このタイトルになっています。とは言っても実際の主人公はその奥さんの方です。ろくでなしの詩人の妻として自分はどう生きるべきか?どうすれば自分の力だけで強く生きていくことができるか?を考えて、積極的に行動に出ます。破滅しか見いだせない憐れな男と、希望を抱いて前進する妻という対照的な存在をからめて、戦後の混乱期の社会の一コマを描いています。えしぇ蔵思うに完璧な作品です。でもあまりに完璧すぎで、これから小説を書こうという方には自信喪失になるかもしれませんのでご注意下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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