蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

夏目漱石 「行人」

日本の文学を築きあげてきた偉大な文豪たちの名作というのは、それを読む時期が異なると、受ける印象や得ることができるものに大きく差が出るのではないかと、40代後半になってから特に感じるようになりました。例えば夏目漱石の作品を高校生や大学生の時に読むのも大いに結構です。若い心理にも大変大きな影響を残すことでしょう。それでもどうしても若さゆえに受け入れる器が小さく、思慮にも乏しいので多くのものを見過ごしていることに気付かないこともまた事実です。一方で社会に出て何十年もの間、様々な経験をして、人生とはかくも苦しいのか、楽しいのか、辛いのか、悲しいのかと感傷もひとめぐりして、ある程度生きていくことに疲労を覚えるようになった時に夏目漱石を読むと、まるで砂漠を歩いている時に不意に与えられた水のように夢中で身体が吸い込んでいくのを感じます。その言わんとしていることがよくわかるんです。そして共感するんです。これは中高年者に演歌が支持されることと似ているかもしれません。結論として、えしぇ蔵は名作は長い年月を間に置いて読み返すべきだと思います。おそらく年老いて余命もわずかになった頃に読むとまた違ったものを得るかもしれません。この作品も40代以上の方が読むとより心に響くものがあると思います。主人公の兄は精神を病んでおり、その兄にどう接していいかわからずに翻弄される家族の姿を描きつつ、病人と健常者の間の、続かない心のキャッチボールの悲しさを訴えています。心にずっしりときて、読んだ後に腕を組んで溜息が出るような重みのある作品ですが、非常に大きなものを心に残してくれる気がします。是非手元に大事に保管して、10年、20年おきぐらいに読み返すことをお勧めします。回をおうごとに作品が深く感じられると思います。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

谷崎潤一郎 「春琴抄」

残した作品が全て名作といってもいい谷崎潤一郎ですが、その中でも最高傑作を選ぶとなるとどの作品でしょうか?一般的には「細雪」か、この「春琴抄」ではないかと言われていますね。えしぇ蔵も同意見です。この2作品が特に秀でていると思います。この作品は、幼い頃に病で視力を失ったにも関わらず、その腕は関西で並ぶ物がいないといわれた三弦の師匠の春琴と、その支えとなることを自らの生涯の使命として生きる佐助との純粋かつ耽美的な愛の物語です。谷崎潤一郎が描く愛の物語とくれば、そこはメインストリートを歩くようなノーマルなものではない場合が多いわけで、ここでもやはりちょっと異常な細い裏道の内容になるのはいわばお約束です。佐助は春琴の弟子であると同時に、春琴の全ての面において補助することが使命ですから、外出の時に手をひくだけではなく私生活全て面倒を看ます。春琴もそれを佐助にしか許可しなかったので自然二人は常に一緒にいることになり、表面的には厳しい師弟関係を貫きつつも、一線を越えた関係にまで発展します。それでも春琴は佐助を弟子として見下した姿勢は崩さず、佐助も師匠として敬う姿勢は変わりません。その関係は極端に表現すればいわばSMの世界です。女王様と奴隷という見方もできるわけです。ある意味この作品は最も芸術的なSM小説なのかもしれません。でもこれは他の作家では創造し得ない独自の世界だなと思います。この作品のもう一つの特徴は実験的な書き方です。改行がなく、句読点も少なくて文章がずっと繋がっています。だから本を開いた時に読みにくいのではないかと思われがちですが、すぐにその名文に魅了されて気にならなくなります。妖しくも芸術的な世界を実験的な筆致で描く至高の名作を是非お楽しみ下さい。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

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