蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宮城谷昌光 「太公望」

宮城谷昌光の作品を読むたびに、というかその仕事ぶりに感服するたびに、松本清張を思い出します。その共通点は綿密な準備とそれに基づいた説得力ある考察です。とにかくどちらも書くまでの調査・勉強が徹底しています。もちろん横で見ていたわけではないですが、作品の奥行に大いにそれを感じます。中国の歴史を描くのに古代から伝わる文書を読破して分析するのは当然ですが、ただ表面的に読むだけでなく、その背景を当時の社会状況などをふまえて推理し、ここは誤りではないかとか、ここは筆者の思いが強すぎるとか、独自の結論を導いた上で自分の作品の参考にしています。そこが歴史小説家の中でも特に秀でている部分ではないかと思います。例えばこの作品の主人公である太公望もそのいい例です。太公望という人は周という国の軍師として殷(商)との戦いに大いに貢献したという記録はありますが、それ以前の出自に関しては全く不明です。生まれた年すらわかりません。様々な伝説があって、もはやそれが史実のように信じられがちですが、実はその生涯は明確にわかってはいません。それなのに一般的には釣り針もつけない竿で釣りをしている変なおじいさんとして登場し、そこで周の文王と出会うというのがいわばお約束のように描かれます。ところが宮城谷昌光は自分なりの考察をもとに太公望を子どもの頃から描き、文王と出会うのはまだ30代の血気盛んな頃にしています。出自もわからない人物ですからこういう描き方も大いにありだと思うわけです。あるいは正解に近いのではないかと個人的には思います。こういう独自の考察は歴史小説には大いにプラスになって作品の重み、面白さを増幅させると思います。こういうタイプの歴史作家がもっと出てきて、新説を作品にして欲しいと切に願う次第です。今までにない若い太公望の活躍を是非お楽しみ下さい。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

星新一 「ボッコちゃん」

小説には大きく分けて長編と短編がありますが、短編の中でも極端に短いものはショートショートと呼ばれます。明確な規定はありませんが、長くてもだいたい原稿用紙で20枚にも満たないような長さのものです。もともとショートショートはアメリカで始まった小説の一形態ですが、それを日本に紹介したのは推理作家の都筑道夫と言われています。そして日本において文学の一つの形として確立させたのは星新一です。生涯でショートショートを1000編以上書いたそうですからその熱の入れようがわかると思います。名作を一つでも残すのは大変な偉業ですが、新しいジャンルを確立させるというのはもっとすごい偉業です。いわば前人未到の荒地に飛び込んで勇猛果敢に切り開き、後に続く人のために道を作るようなものですからその苦労たるや測り知れないものがあります。後世に生きる我々は大いに敬意を表し感謝すべきところです。いつもなら作家の作品を一つ取り上げて紹介していますが、今回はとりあえず作品名として「ボッコちゃん」を上げてはいるものの、お勧めしたいのは星新一のショートショート全てです。SFをメインに様々なジャンルのものがあり、全体的に非常に質が高いです。いつの時代においても古さを感じさせないように書かれており、固有名詞も使わず漠然とした表現を使うことで具体的なものを何も想起させずに読者を楽しませる工夫がなされています。そのために海外でも人気が高く世界中で愛読されています。一つ、二つ読めば読者に対して純粋な夢を描かせる配慮がなされていることはすぐにわかります。時代も場所も年齢も立場も宗教もイデオロギーも超えたところにある、絶対的なエンターテイメント作品と言えるのではないでしょうか。日本が誇るべき作家の偉大な功績を是非お楽しみ下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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