蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宮沢賢治 「どんぐりと山猫」

宮沢賢治の童話は童話と言ってしまうにはあまりにも対象が広く、その含むところが非常に多いということは皆さんご存知の通りです。子どもは表面だけを読んで楽しむ、大人はその奥にあるものをくみ取って考えさせられる、それが宮沢賢治の童話の特徴だと思います。今回ご紹介する「どんぐりと山猫」もその好例です。絵本になって広く流通していますから読んだことある方はかなり多いと思いますが敢えてご紹介します。作品の内容を簡単に言うと、山のどんぐりたちが集まって誰が一番であるかを議論します。それを裁判長として仕切るのは山猫です。どんなどんぐりが一番なのか、どんぐりたちの意見は分かれてそれぞれが自分が一番であると主張しますので、山猫裁判長はどう裁決したらよいか迷います。そこで山猫からのはがきで呼び出された主人公があるアイディアを提案して、裁判は見事に解決するという話です。どんぐりたちが他の意見に理解を示さず自分の主張を譲らない姿勢はまさに人間の世界そのものです。そしてそれを解決した主人公の一言は聖書のマルコによる福音書10章44節にある言葉「あなたがたの間で人の先に立ちたいと思う者は、みなのしもべになりなさい。」と通じるものがあります。謙虚であること、他の意見を尊重すること、個人ではなく全体を考えること、などなど様々な教訓が含まれています。どの世代が読んでも学ぶものがある。それが宮沢賢治の童話です。人として参考にすべき大事なことがつまっているという意味からすれば、童話の形式をとった聖書という見方もできるかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

谷崎潤一郎 「陰翳礼賛」

誰か特定の文豪個人の全集を読まれたことがある方はわかると思いますが、やはり文豪というのは随筆や発表するつもりのなかった日記、あるいは誰かにあてた手紙に至るまで格調高い文章になっているものです。だから全集などに随筆はもちろん、日記や手紙なども収録されていますが、それらも非常に芸術的です。内容に関わらずやはりどこか気品を感じるというか、貴重な文章を読ませてもらってるという有り難ささえ感じることがあります。例えて言うなら日記の傑作としてあげられるのが永井荷風の「断腸亭日乗」ですね。これは本当に日々の記録として書かれたものですが、これこそ永井荷風の最高傑作という見方もあるほど素晴らしいものです。それに当時の生活や時勢を知るための貴重な資料にもなります。では随筆の傑作はとくればこの「陰翳礼賛」こそ筆頭にあげられるべきです。これは本当に谷崎潤一郎個人の意見を述べた随筆ですが、格調高い文章はもちろん、その内容が非常に深い考察によるものであり、一種の論文のような趣もあります。思ったことをただ羅列した、ありがちな随筆とは一線を画しています。日本人の民族としての特徴と、その作りだしてきた文化の深さを確乎とした信念を持って述べており、日本人が読めば自分たちの国の良さに改めて気付かされることは間違いありません。視点が斬新で、考察が深甚で、表現が的確で、結論が明確です。日本人の心の奥にあるものを知ることができるという意味において、日本について知りたいという外国の人にもお勧めの作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

宮城谷昌光 「香乱記」

歴史小説の作家にはそれぞれが得意とする時代と背景があるものです。戦国時代や幕末動乱の頃を書く人は枚挙に暇がありませんが、他にも太平洋戦争を専門に書く人、平安時代を書く人、あるいはもっと昔の奈良時代を書く人、様々です。一方で目を大陸に向けると中国の歴史を書く人も多いですね。その筆頭はやはり陳舜臣が上げられると思います。日本人に中国の歴史の面白さを知らしめた功績は大きいと思いますが、残念ながら故人となりました。では現役では誰が上げられるかとなると、えしぇ蔵は宮城谷昌光ではないかと思います。あの広大な大陸の覇権を賭けて群雄が競い合う物語は、歴史好きならずとも興奮するものがあると思います。最近ではそういう作品を読みたくなった時には、宮城谷昌光を選ぶようにしています。春秋戦国時代を中心に、それ以前の殷や周の時代などを舞台にした傑作を多く残しています。おさえておくべきものだけでも「楽毅」、「太公望」、「重耳」、「天空の舟」、「孟嘗君」、「晏子」などなど、どれも心躍るものばかりです。今回紹介する「香乱記」は、初めての統一国家である秦を作った始皇帝の治世の末期、圧政に耐えかねた人々の蜂起によって再び戦乱の時代が訪れ、やがてそれが勝ち残った劉邦によって終止符が打たれるまでの波乱の時代を描いています。そうは言っても主人公は劉邦ではなく、斉という国の王になる3人の兄弟を中心に物語は進みます。宮城谷昌光はこういうちょっと違った角度から歴史を捉えようとする姿勢が非常に特徴的です。歴史をよりリアルにそして新鮮に感じることができます。中国の歴史に埋もれた優れた人物を発掘し作品に登場させることを得意としているので、いつも新たな発見があります。文章も読みやすくテンポも速いので一気に読めます。宮城谷昌光の中国史ワールドをまだ未体験の方はまずはこの「香乱記」から始めてみてはいかがでしょうか?

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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