蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

芥川龍之介 「地獄変」

既にご存知の方も多いとは思いますがここで紹介せずにはいられないほどの非常に強烈な作品なので敢えて書かせて頂きます。およそ芸術作品と呼ばれるものにとって、見る側に与えるインパクトは非常に重要な要素であることは否めません。えしぇ蔵は様々な文学作品においてインパクトを受けましたが、およそこの作品ほどの強烈なものはありませんでした。ここでいうところのインパクトは”戦慄”とも言えますし、”恐怖”と表現してもいいと思います。初めて読んだのは大学生の頃でしたが、衝撃的なラストシーンではしばし呆然としたのを覚えています。作品の内容もさることながら、文庫本でわずか46ページの短編でここまでのインパクトを与えることができるという芥川龍之介の手腕にも驚きました。この作品は芥川龍之介が得意とする”王朝もの”の一つです。”王朝もの”というのは作品に描かれる時代がだいたい平安時代くらいまでのものを指します。「羅生門」、「鼻」、「偸盗」、「藪の中」、「芋粥」、「俊寛」などがそこに含まれますがいずれ劣らぬ名作ばかりです。その中でもこの作品は一段と光を放っていると個人的には思います。主人公は当代随一の絵師。ある日大殿様に地獄変の屏風を描くことを命ぜられます。ところがどうもうまく描けず、ついには地獄を見る必要があるという結論に達します。そこで大殿様に頼んで女性を乗せた牛車を燃やすところを見せてもらうことにします。そしていざ牛車に火がかけられる時、中に乗っている女性が誰かに気付いて絵師は驚きます……。その後の絵師の行動にも慄然とさせられます。まだ読んでいない方は是非、そして読んだ方も今一度あのインパクトを体験して下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

松本清張 「西海道談綺」

松本清張は膨大な量の作品を残しています。松本清張記念館によれば冊数でいうと約700冊とのことです。それだけの数になると代表作を選ぶのが大変です。あれもこれもと選んでいくと代表作だけでどんどん数が増えていきます。これは作品数が多いだけでなく、ジャンルが多岐に渡ることにもよると思います。推理小説、歴史小説、現代小説、ドキュメンタリー、それに随筆や紀行文もあります。それぞれのジャンルに傑作があるのでなかなか絞れません。それに個人的な趣向もあるので誰に聞いても一致しないことも特徴です。もしえしぇ蔵が選ぶなら、王道を行く「点と線」、「ゼロの焦点」、「砂の器」「わるいやつら」、「黒皮の手帳」、「或る『小倉日記』伝」、「西郷札」、「張込み」、「日本の黒い霧」……などの錚々たる作品に加えて、この一冊「西海道談綺」を加えます。これはジャンルでいうと伝奇小説になります。伝奇小説というのは歴史ものではあるけど史実に基づいていない創作で、伝説や超常現象などが絡んだファンタジー的要素を含むエンターテイメント作品という感じでしょうか。だからこの作品の特徴と言えば単に一言、”夢中になるほど面白い”ということです。舞台は江戸時代。主人公は妻と浮気した上司を斬り、妻を廃坑に突き落として逐電します。そして江戸へ出て名を変えて新たな人生を手に入れます。運も手伝って出世して、西国郡代手附として日田に派遣されます。そこで奇怪な事件に巻き込まれて、不気味な悪の集団と対決することになります……。文春文庫で500~600ページのものが4冊という大作ですが、とにかく面白いので長さは気になりません。それにしても全くの創作でこれだけの量を書けるという力量には本当に驚きます。大御所の常人には測り知れない創作能力の前にはただひれ伏すのみです。

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吉村昭 「彰義隊」

歴史上の事件というのは必ずしも誰かの意思をきっかけとして起こったものばかりではありません。周囲の環境や事態の急展開などによってそうなることを望んでいないにも関わらずそうなってしまったという、いわば同情を誘うようなケースもしばしばあります。この作品の主人公である輪王寺宮能久親王に関する一連の事件はまさにその典型といえます。皆さんは戊辰戦争と聞けば朝廷対幕府という構図がすぐに浮かぶと思います。ところが意外にも皇族の中で一人だけ幕府側で戦った人がいることをご存知でしょうか?それが輪王寺宮能久親王です。それも本人は当初全くそのつもりはなかったにも関わらずです。輪王寺宮能久親王は上野寛永寺の山主として江戸にいて徳川家とも深い親交があり、江戸への思い入れが強くありました。その江戸へ攻め寄せてくる新政府軍に対して、謹慎する徳川慶喜の助命嘆願も含め、全てを平和に解決しようと幕府と朝廷の間に立って文字通り東奔西走します。ところがこれが朝廷側には受け入れてもらえません。その後、江戸も開城し新政府軍は江戸に入りますが、それを快く思わない旧幕府の残党は上野寛永寺を拠点に決起します。そこで輪王寺宮能久親王は成り行き上その上に立つ者とみなされてしまいます。上野の山が落ちると敗走が始まり東北に逃がれます。そして今度はそこで奥羽越列藩同盟の盟主に担ぎ上げられてしまい完全に朝敵となります。良かれと思って行動したにも関わらず、事態の変化に伴って困難な状況に陥っていく輪王寺宮能久親王の姿に運命の恐ろしさのようなものを感じます。さて、最後はどうなるのでしょうか?そこは是非読んでご確認下さい。亡くなった時のことまで詳細に調べてあります。時代に翻弄された人の人生は後世に非常に多くの教訓を残していると思います。

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