蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森村誠一 「人間の証明」

「ブロックバスター」という言葉があります。もともとは1ブロック(街区)を丸ごと吹き飛ばしてしまうほどの強力な爆弾という意味の言葉でしたが、そこから転じて今では本や映画において社会に圧倒的な影響を与えることができるほどの大ヒット作を意味します。角川文庫の角川春樹は1970年代に「ブロックバスター戦略」というのを展開します。優れた小説とそれをもとにした映画の両方をあらゆるメディアを使って大々的に宣伝し、力技で大ヒットに仕立てあげて爆発的な売上につなげるという作戦です。その一番わかりやすい例が「犬神家の一族」などの横溝正史の作品群です。横溝正史は角川春樹によって日本の推理小説史上にその不動の地位を築くことができたと言っても過言ではないと思います。この作戦において一番大事なのは作家の選定ですが、そこで選ばれた一人が森村誠一でした。当時まだ駆け出しの作家に過ぎなかったのに角川春樹はその才能を見抜いて大抜擢します。そして「あなたの作家としての証明になるような作品を書いて下さい」と言って森村誠一に作品を依頼します(ちなみにタイトルはこの時の言葉「作家の証明」から来ているそうです)。依頼された段階で既に映画化することを前提としていましたので、そこまで視野に入れた作品作りをする必要がありました。だから読むとわかりますが映画を見ているように場面が整然と展開し、複数のストーリーが徐々に近づいて一つの結末を迎える流れになっています。内に込められたテーマも深く、またサスペンスとしての面白さもあり、飽きさせずに一気に読ませるエンターテイメントでありながら、読後に深い感傷を残すという非常に奥の深い作品です。森村誠一の技量が初期の頃から既に完成されていたことがわかります。この人も忘れてはならない日本が誇る作家ですので読まれていない方、あるいは映画しか見ていないという方は是非原作を読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

三島由紀夫 「豊穣の海」

日本の文学も世界の文学も21世紀の現在ともなれば名作は山ほど残されているわけですが、その中で最も優れていると思うものを選べと言われたら皆さんなら何を選びますか?えしぇ蔵は世界で最も優れていると思う作品は迷うことなくドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を選びます。この先の未来においてもそれ以上の作品が現れるとはとても思えません。それほど群を抜いた存在だと思います。では日本文学においてはと聞かれたら、これも迷わず三島由紀夫の「豊穣の海」を選びます。三島由紀夫の最後の作品で、えしぇ蔵が思うに最高傑作です。主人公が輪廻転生を繰り返していきますが、それを友人がその一生の間で追いかけて出会いを繰り返すという時空を超えた壮大なドラマです。「春の雪」、「奔馬」、「暁の寺」、「天人五衰」の四部に分れています。主人公は一部終わるごとに来生はどこで会えるかのヒントを友人に残します。友人はそれを手掛かりに生まれ変わった主人公を探します。生まれ変わるたびに異なる舞台で異なるドラマが展開するので、非常に長い作品ですが全く飽きさせません。三島由紀夫ですから文章から溢れる知性と気品は卓越したものであり、エンターテイメント性も際立っています。「カラマーゾフの兄弟」もそうですが、小説としてのあらゆる魅力を持っています。この作品を書いた後、市ヶ谷の自衛隊駐屯地に行って決起を呼びかけ、それに失敗して割腹自殺をしますが、その前にこの世での最後の輝きを残そうとして、その持てる力を最大限に発揮して書いたのではないかと個人的には推測しています。まさに渾身の一作です。作品も生き方も後世に多大な影響を残した人ですが、その大きさを感じるには最も適した作品ではないかと思います。自分の国にこんなすごい作家がいたことは世界に対して大いに誇れることだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

司馬遼太郎 「坂の上の雲」

改めて紹介する必要もないほど多くの日本人に知れ渡った司馬遼太郎の名作なので、ここではちょっと角度を変えてご紹介したいと思います。この作品は皆さんもご存知の通り、日露戦争の頃の明治日本を描いています。胃の中の蛙であった江戸時代の日本が、維新をとげて初めて世界という海に出て、欧米列強に追い付こうと国中が必死に頑張ったあの健気な時代の日本です。主人公は3人。日本陸軍において初めて騎兵を組織し、当時最強の騎兵集団であったロシアのコサック部隊を破った秋山好古と、丁字戦法という世界を驚かせた作戦で日本海海戦を劇的な勝利に導いた名参謀の秋山真之、そして俳句、短歌、詩、小説の新しい方向性を確立し、後の文学界に多大な影響をもたらした正岡子規です。三者三様の世界を織り交ぜながら、日本が日露戦争に勝つことによって、世界においてその存在を確乎たるものとすることに成功するまでを描いています。壮大な歴史大作であり、司馬遼太郎の代表作の一つとして位置づけられています。……ここまではよくある書評的記述ですが、ここからはちょっと角度を変えます。この作品を読むにあたって注意して頂きたいことが2つあります。まず1つ目は史実と異なる部分があることです。これは意図したものなのか誤謬なのかは不明です。1~2箇所ではありません。結構あります。それから2つ目は司馬遼太郎は情熱的に書くからこそ面白いのですが、そのせいか史実や人物の捉え方において一方に偏りがあるのは否めません。そこには司馬遼太郎の好みが大きく反映されているように感じます。だからこの作品の内容を全て史実ととらえ、かつ文章の背景にある考え方を100%正しいものと解釈して読むことは危険です。この作品はあくまで小説であり、エンターテイメントです。楽しむための作品ですのでそこをお忘れなく。そのスタンスで読めば、これは紛れもない傑作です。是非そこはご注意下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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