蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

松本清張 「空の城」

1975年に起こった「安宅産業」の経営破綻をご存知でしょうか?ご年配の方は覚えていらっしゃることでしょう。これは非常に衝撃的な出来事でした。「安宅産業」というのは当時日本において三井、三菱、住友、伊藤忠などの錚々たる10大商社の中に名前を連ねていたほどの一大総合商社でした。それが石油業界への参入に失敗したことをきっかけに巨額の負債を抱えて破綻してしまったわけですからそれは大騒ぎになりました。こんな大きな企業が潰れてしまったらそれに派生した連鎖倒産によって日本の経済に大きな打撃を与えるということで、国を挙げてその事態に対処し、ようやく最後は伊藤忠への吸収合併という形で決着がつきました。この一連のすったもんだを松本清張が綿密に取材して、企業名や個人名だけを架空のものに替えただけで、内容はほぼ実際に起こったことそのままに小説にしたのがこの作品です。松本清張はこういった事件や事故のドキュメンタリー的な作品においてはその驚くべき取材力と豊富な知識で読者を圧倒させますが、この作品においても石油精製工場における精油のしくみ、社主の趣味である中国、朝鮮の陶磁器などの説明においてそれを発揮します。あまりに詳細に渡るのでついていくのに大変な部分があるほどです。この作品は一大商社の崩壊までのプロセスを克明に記したものにすぎず、脚色的なドラマがない(必要ないほど面白い)ので、企業というものがいかに倒産していくかを知ることができます。各々は自分の仕事をしているだけでそこに悪意も何も介在しないのに、ちょっとした見込み違い、不運の重なりなどによって大変な事態を引き起こしてしまうというビジネスの世界の実情を学ぶには大いに参考になる作品です。実際に商社マンにはよく読まれている作品だそうです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

塩野七生 「ローマ亡き後の地中海世界」

塩野七生といえばあのローマ帝国の誕生から滅亡までを描いた「ローマ人の物語」が有名ですね。新潮文庫でなんと43巻という超大作です。あの作品はローマ帝国が滅んでイタリアが細かく分裂してしまったところで終わっています。非常に面白い作品なので読み終わった後にどうしても思ってしまうのが、「その後はどうなったの?」ということです。かつて地中海を自分たちの海であると豪語するほどの大国だったのに、分裂してしまっては大して力はありません。その状態で歴史はどう展開していったのか?それを教えてくれるのがこの作品です。実質、「ローマ人の物語」の続編といってもいいと思います。この作品で描かれている時代の地中海は無法地帯となっています。北アフリカを拠点としたサラセンの海賊が好き勝手に船を襲ったり、地中海沿岸の街に上陸して略奪を繰り返していました。それに加えてイスラムの勢力もどんどん拡大して、大国トルコの脅威にもさらされます。それらに対してイタリアの国々を筆頭に地中海沿岸の各国はいかに対処したのか、その長い歴史を描いてあります。期間でいうと西ローマ帝国が滅んだ5世紀から、海賊行為を禁止する国際的な合意である「パリ宣言」が行なわれる19世紀までの長きにわたります。この作品で描かれているのは単に海賊との戦いだけではなく、それぞれの国の生き残りをかけた戦いです。これは陸続きで多数の国家が同居しているヨーロッパ、中東エリアならではの歴史の展開であり、島国であり他からの攻撃を元寇と米軍以外に知らない日本人が読めば本当に興味深いものがあると思います。今のヨーロッパが過去にどうなっていたのか、どうして今の状態になったのかを知る上でも大いに参考になる作品です。この作品もまた面白くて止まらないので文庫で全4巻が一気に終わります。是非皆さんもヨーロッパの歴史に触れてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

吉村昭 「羆嵐」

大正4年12月、北海道の開拓村において恐ろしい事件が発生しました。冬眠できなかった巨大な羆が村を襲い、わずか2日間で6人(+胎児1人)の命を奪い、3人に重傷を負わせました。羆は一度人間を食べるとその味を覚えてしまい、また人間を襲うようになるらしく、空腹を満たすために次々と犠牲者が出たというわけです。その羆は足先から頭までの高さが2メートル70センチ、体重は383kgという巨大さでした。そんな大きな熊が冬の夜に民家を襲うなんて想像しただけで寒気がします。この事件は日本獣害史上最大の惨事と言われています。こういった事件を緻密に調査し整理して、誰にも理解しやすい文章で作品にすることにかけては吉村昭という存在は絶対的なものがあります。題材として選ぶ事件も非常に興味深いものばかりで、どの作品も一度読み始めると事件の顛末が知りたくて止まらなくなります。一般に「三毛別羆事件」と言われているこの事件も吉村昭によって詳細がきちんとまとめられており、しかもそれに沿って物語としても成り立っていますので飽きさせず、面白く読ませてくれます。この巨大な羆に対して大勢の男たちが挑むわけですが、羆との対決など初めての者ばかりでとても太刀打ちできません。そこで羆撃ちの名人である銀四郎に羆退治を依頼します。そして巨大羆と老練なマタギとの対決が始まります。この作品をきっかけにちょっとマタギについて調べてみました。自然の変化を読み、動物の習性を知り、何日も山にこもる強靭な体力と精神力を持った、本当に超人的な人たちであることを知って驚きました。さて、この巨大羆はどうなるのでしょう?是非作品で結末を確認して下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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