蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

木山捷平 「子におくる手紙」

この作品は非常にユーモラスな構成になっています。田舎の父親から上京した息子への手紙を、時間をおって並べているだけで、その手紙に関するコメントも、関係する人物や背景などの説明も一切ありません。従って手紙の内容だけで、どういうことが起こってどういうふうに進行しているのかを推測しなければなりません。しかも息子からの返信は一切出て来ません。これまた父親の文章から、その前に息子からどんな手紙が来たのかを推測しなければなりません。こういうふうに書くとちょっと読み解くのが難しそうですがそんなことは全くありません。父親の手紙だけで全てがありありとわかります。田舎の実家は貧乏で父親は必死で働いて生活費を工面しています。だから息子には早くいい仕事についてもらって、少しでも実家の家計を助けて欲しいという思いが父親にはあります。ところが息子はせっかく決まった勤め先を首になったり、ずぼらな生活をしながら文学の道を模索したりと一向に落ち着く気配がありません。父親の手紙は時には怒り、時には許し、時には心配しており、息子への愛が感情の起伏によって巧みに表現されています。作品全体に父親の大きな愛情を感じます。この作品は実際に木山捷平宛に父親から送られてきた手紙をもとに書かれています。つまり父親の言うことを聞かず、文学の夢を追いかけて勝手に上京しているのは木山捷平その人なんです。そういう背景を予め知って読むのもまた木山捷平の若かりし頃の姿が浮かんで面白いかもしれません。太宰治など、当時の作家たちにも絶賛された名作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

塩野七生 「海の都の物語」

ヴェネツィアに行ったことがある方はあの街の美しさと、伝統がそのまま形となったような街並みの素晴らしさに魅了されたことでしょう。実際、ヴェネツィアの写真を見た時にそこに写っている人の服装で時代を判断するしかないほど昔からの姿を守り続けています。この魅力的な街を含む地域一体はかつて一つの国でした。本当に小さい国でしたが、それが「地中海の女王」と呼ばれるほど周囲の海を制していた時代がありました。これはヨーロッパの歴史における一つの奇跡ではないかとえしぇ蔵は思います。周囲を強大な国に囲まれている状態で、海運貿易によるビジネスと強大な海軍力によってなんと1000年ものあいだ独立を維持し続けました。なぜそんなことが可能だったのか?誰しも疑問に思うところですが、それを塩野七生が得意の取材力で徹底調査して、完全な歴史書ではなく小説的なエッセンスも加えて面白く読めるようにまとめあげたのがこの作品です。新潮文庫版で全6冊の大作です。これを読めば「地中海の女王」の1000年の奇跡の謎が解明できます。「ローマ人の物語」の時にもとにかく脱帽しましたが、塩野七生の徹底した取材はもはや小説家のそれではなく学者の域に達していると思います。取材力のある人の作品は必然的にいいものになりますがその典型と言えます。また、ここで学べるヴェネツィアの人々の政治に関する考え方や取組には、小さい国が世界においてしっかりとその存在を確立できるヒントがあるように思いますので、政治の世界に興味がある方にも是非読んで頂きたいと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

山岡荘八 「徳川家康」

この作品を初めて見たのは学生の頃に親戚の家に遊びに行った時でした。本棚に同じ装丁の文庫本がずらりと並んだ姿は圧巻で、書く方はもちろんすごいが読む方もすごいなと驚いたのを覚えています。この作品、講談社の山岡荘八歴史文庫で全26巻です。しかも1冊の量も400~500ページとかなりの厚さです。原稿用紙にしてなんと17,400枚。世界最長の歴史小説と言われています。本棚に並べば壮観です。自分にはこんな長いものはとても読めないと思っていましたが、歴史小説でしかも戦国時代をテーマにしていると読めていくものです。しかも山岡荘八の腕にかかれば徳川家康の全生涯がよりドラマティックに描かれており、読みだすと止まらなくなるほどです。歴史小説が好きな人の多くは戦国時代か明治維新の頃が特に面白いと言います。つまり世の中が混乱していた時代ですね。戦国時代は応仁の乱をその始まりとすれば、江戸幕府の成立で平和がもたらされるまで136年も続きました。その間ずっと日本中で戦に次ぐ戦です。各地で力を持った武将が覇を競い、徐々により強大な力のもとに収束されていきます。いわばその最後の勝者が徳川家康です。その75年の生涯をたどっていくことが、戦国時代の半分以上をたどることになるので、この作品によって戦国時代の主な流れを知ることもできます。優れた武将は何人もいたのに、なぜ徳川家康が最後の勝者になったのか?山岡荘八の描く人物像にその答えがあるように思います。よく経営者にも読まれている作品ですが、人の上に立つことにおける様々なヒントも含まれています。面白いだけでなく得るものも非常に多いので是非多くの人に読んで頂きたいと思います。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

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