蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

澤地久枝 「滄海よ眠れ」

太平洋戦争においてそれまで連戦連勝だった日本が劣勢になる転機となったのが、昭和17年6月5日(日本時間)のミッドウェー海戦です。この海戦は主力中の主力であった空母4隻を一気に失うという大敗北でしたから、当時大本営は国民にショックを与えないようにひた隠しに隠しました。その影響か、戦後になってもこの戦いに関しての詳細な経過などが今一つはっきりしないままになっていました。その謎の部分を明らかにすべく、深く入り込んで行ったのが澤地久枝です。日米双方の立場に立って綿密に調べ上げ、その結果をまとめ上げてこの作品が生まれました。その情報の量と細かさには本当に驚嘆させられます。この戦いにおける日本側及びアメリカ側の死者全ての名前を調査の段階で特定したというのですから、その労苦は想像を絶するものがあります。この作品のようなドキュメンタリーにおいては、既に明らかになっている事実を整理して並べるだけでは存在意義がありません。後にこの件に関して調べる人にとってプラスになるように、そこに何か新しい発見を加えなければいけません。この作品はそれが非常に大きなものであって、それまでのミッドウェー海戦に関する解釈を大きく揺さぶるものでしたので、資料としての価値は大変なものです。それに女性の立場で書かれたせいか、日米どちらにも肩入れしておらず、公正な目で冷静に分析してあることも大きな特徴です。より真実に近づき、それを多くの人に知ってもらうことで戦争の悲惨さを伝え、平和の価値を訴える澤地久枝の姿勢には本当に脱帽です。皆さんも是非読んでみて下さい。そして平和について考えてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

塩野七生 「ローマ人の物語」

この作品はえしぇ蔵がイタリアという国の魅力に目覚める最初のきっかけを作ってくれました。だから非常に恩を感じている作品です。紀元前のローマ建国からその崩壊とその後の世界の様子まで、1000年以上におよぶ歴史を順を追って細かくそして面白く述べられた塩野七生の渾身の力作です。単行本で15巻、文庫本で43巻にも及ぶ長さで、単行本は1992年から1年に1冊ずつ刊行され、最後の巻の刊行まで実に15年も要しています。(文庫本の背表紙は紫色なので、おそらく本屋さんで紫色に染まる一角が目に留まったことがある人は多いことでしょう)1年に1冊ですからいかに細かく調べられ、そして丁寧に書かれたかがわかります。その賞賛すべき仕事の量と質には本当に圧倒されます。ローマ帝国はどんな国だったのか?なぜ1000年近くも栄えることができたのか?なぜヨーロッパのほぼ全土、そして中東、アフリカまでをも含む広大な地域を治めることができたのか?そのなぞがこの作品で全てわかります。そしておそらく多くの人がこんな素晴らしい国がかつて存在したことへの驚きと憧憬を感じることでしょう。中でも魅了されるのはユリウス・カエサルの生涯です。ローマ帝国の基礎を築いた人で、そしてヨーロッパを作った人でもあります。人間の全ての歴史において最も優れた指導者だったと言えるのではないでしょうか?そしてカエサルの後には個性豊かな皇帝が次々に登場します。人物や事件だけではなく当時の政治のシステム、インフラの整備、庶民の生活なども細かく述べられています。どの時代も興味深く読めます。皆さんも是非この大作にチャレンジして、かつて存在した素晴らしい国に思いを馳せてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

高見順 「如何なる星の下に」

太平洋戦争が始まる直前、昭和14年、15年頃の浅草を舞台にした話で、小説のような随筆のような不思議な作品です。人情味のある下町の当時の風景が細かく描写されていて、そこでそれぞれの人生が交錯していきます。悩んだり浮かれたり恋したり堕落したり、人間くさいドラマが淡々とつづられていきます。そういった登場人物の内面と浅草の風景とが妙にマッチしていて、作者が浅草を舞台にした理由がわかるような気がします。浅草は今でも人情味のある町ですよね。えしぇ蔵は東京では浅草が一番好きです。ここだけはまだかすかに昔の東京、あるいはもっとさかのぼって江戸の面影を感じることができるような気がします。ところで浅草を舞台にした小説といえば思い起こすのが永井荷風ですね。どこかこの作品の雰囲気は永井荷風のそれに似ています。実は高見順と永井荷風はいとこ同士です。高見順の父親は官僚の阪本釤之助で、永井荷風の父親はこれまた官僚の永井久一郎です。阪本釤之助は永井久一郎の弟です。だから作品に似た雰囲気があるのはもしかするとDNAの影響かもしれませんね。ちなみに永井家は尾張で帯刀を許されたほどの豪農で由緒ある名家です。だからどちらもおぼっちゃんであるといえます。実はこの2人、いとこ同士でありながら大変仲が悪かったそうです。天才同士、何か相容れないものがあったのでしょうか?ちょっと残念な気がします。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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