蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

福永武彦 「草の花」

福永武彦という人はあらゆる形でその才能を表現しています。詩や小説はもちろん、随筆や海外文学の翻訳、日本の古典の現代語訳、推理小説、そしてSFまで手がけるというマルチぶりですからまさに物を書くために生まれてきた人という印象を受けます。小説に関してはこの作品で地位を築きました。純粋な愛を美しい文章で表現するこの女性うけしそうな作風から、「なんだか堀辰雄に通じるものがあるな」と感じる方も多いと思います。それもそのはず、福永武彦は堀辰雄の薫陶を受けています。「美しい文学だなぁ……」としみじみ感じるあの雰囲気を味わうことができます。今時この作品の主人公みたいに純粋な気持ちで恋愛をしている人は少ないかもしれません。なんだか現代人としてちょっと反省させられるような純愛物語です。どんなに時代が荒れようと、こういう小説の存在が一つの人間の生活の拠り所となって、心のやすらぎを与えてくれるのではないかと思うので、是非多くの人に読んでもらって、更に次の世代へも伝えていくことができればと思います。余談ですが、皆さんは1961年に東宝が公開した怪獣映画「モスラ」はご存知かと思います。ザ・ピーナッツが小さい妖精役をして話題になった映画ですね。あの映画の原作「発光妖精とモスラ」は実は福永武彦、中村真一郎、堀田善衛の3人によって書かれたものです。こういうところにも名前が出てくるということが、まさに福永武彦の多才ぶりを表わしているように思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

尾崎一雄 「暢気眼鏡」

尾崎一雄は私小説(心境小説)作家で、物書きでありながら一所懸命書くわけではなし、かといって他の仕事をするでもなし、だから必然的に貧乏でおまけに病弱、家族には苦労をかけっぱなし……という私小説作家によくありがちのパターンの人で、そんな生き様をそのまま描いたような作品が多いです。日常生活で思ったことをつらつらと書いていく感じなので、今の時代に発表するとエッセイに分類されてしまうかもしれません。文章は極めて読みやすく、ストレスを感じません。志賀直哉の弟子で、その文章スタイルを大いに参考にしていますから、読みやすさは師匠譲りと言えるでしょう。この作品は、貧乏なのにあせることのない主人公と、それに同化してしまうこれまた暢気な奥さんの話です。そのまんま尾崎一雄と奥さんの話なんですが、奥さんの人物描写が非常に的確にその人間性をとらえており、ありありとその微笑ましい人柄をイメージできます。その描き方の中に尾崎一雄の奥さんへの愛情が感じられて、心温まるものがあります。暢気な二人の暢気な生活は、貧乏もそっちのけでささやかな幸せを形づくっていきます。なんともユーモラスで微笑ましい夫婦の物語です。物は考えようと言いますが、同じ貧乏でもこの二人のように暢気にとらえることができるならば、不幸の要素にはなり得ないのでしょう。見習うべき部分もあるかもしれません。この作品を含めた短編集「暢気眼鏡」は第5回芥川賞を受賞しました。是非他の短編も読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

高浜虚子 「風流懺法」

高浜虚子は俳句の世界の人なので自然や人物を写生するような文章を得意としており、初期の頃はそういった写生文が多かったわけですが、この作品からいわゆる一般的な小説という形のものを書き始めます。ですが文章はやはり写実的で、それだけに登場人物の姿やまわりのシチュエーションが非常にありありと想像できます。つまり、ストーリーとしては創作なんですけど、文章はあたかも見てきたかのように写実的なわけです。これは小説としてはかなり優れているということを意味しています。実際に非常な傑作として評価されています。京都で叡山に登ったり、祇園で遊んだりした経験をもとにして創作したそうですが、その時に念の入った観察をしていたのでしょうか、読んでいると自分もそこにいるかのような臨場感を感じますし、人間性を明確に表現された登場人物たちはユーモラスにいきいきと動きまわります(特に一念という小僧さんのセリフや動作などは実に微笑ましく、どこか平和な気持ちにさせてくれます)。もし小説を書いてみよう思う人にはこの作品は非常に優れた教科書になると思います。敬意をはらうべき名作の一つです。ちなみに「懺法」という言葉は仏教用語で、罪を懺悔する際の儀式の作法のことだそうです。法華懺法、観音懺法、阿弥陀懺法などいくつか種類があるそうです。それに「風流」ということばを結びつけるところがなんとも、高浜虚子らしいセンスだなと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する