蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

小林多喜二 「党生活者」

日本の労働者の叫びを表現したプロレタリア文学を語るにおいて、この人の名前はその中心人物として必ず登場します。すさまじいまでの強い意志と熱い魂、それを貫き通して最後はなんと特別高等警察(共産主義者や社会主義者を取り締まる機関)による拷問で獄死するという壮絶な最後をとげます。労働者のために、日本のために、活動しペンを走らせ、死ぬほどの拷問にあっても己の信念を曲げなかった人です。わずか29年の人生です。力いっぱい駆け抜けて行ったわけです。なんとすごい人でしょう。後世の日本人が忘れてはならない人の一人です。この作品はある軍需工場における争議を描いていますが、これはまさに小林多喜二が地下活動をしていた時の体験をもとにしていますので、非常にリアリティがあります。彼は作品を通して多くの日本人に、労働者に、強く訴えたいものがありました。社会を変えようと一生懸命でした。ですがその文学はただの手段になっているのではありません。文学作品としても非常に優れたものになっているからこそ訴えるものが心に響いてくるわけです。今となっては社会主義や共産主義によって成り立つ国家には大いに問題があることは世界の歴史が証明して明白になっていることですが、これらのプロレタリア文学をあえて今の時代に読む意味は、社会を変えようとする熱い姿勢自体に学ぶためだと個人的には思います。この作品を読んで、その熱き魂の一つに触れてみるのもいいかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

城山三郎 「指揮官たちの特攻」

個人的に城山三郎のように徹底的に調べて記録のように書くというスタイルは好きでよく読みます。この作品は太平洋戦争中に最初に特攻した関行雄大尉と最後に特攻した、というか敗戦を知らされないまま特攻に出撃した中津留大尉の二人を中心に、人間を兵器の一部としかみなさない神風特別攻撃隊の悲しい顛末を描いています。日本はなぜ、若い命が次々に消耗品のように散っていくような状況になったのでしょうか?平和な現代を生きる日本人として考えさせられます。犠牲になった人たちの悲しみを今に伝えようと必死に書いている作者が想像できるほど、文章は哀切に満ちていて心に響きます。特攻隊員たちが基地の近くの料亭の柱や鴨居に残した刀傷を見て、作者が「ごめんね」とつぶやきながらその傷をなぞるという記述がありますが、そこで深い感銘を受けました。涙なしでは読めません。特攻をどうとらえるかは今でも人それぞれで、ただの自殺行為だと完全否定する人もいれば、その精神と壮挙を礼賛する人もいます。何が正解であるかはおそらく明確にしにくい問題だと思いますが、もしあなたが特にはっきりとした意見を持っていないのであれば、是非この作品を読んでから決めて頂ければと思います。いずれにしろ、一つはっきり言えることは、このような状況に至るような政治決断を二度としてはならないということだと思います。平和というものにいつも感謝しながら生きていきたいものですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

尾崎紅葉 「伽羅枕」

この作品は実在したある老女の生涯を、紅葉が自ら本人のもとに出かけて取材し、書かれたものです。その老女とはかつて吉原でこの人ありとうたわれた花魁で、その侠気ある振る舞いで名を馳せた人でした。客の男性との関係からいろんな騒動を起こしたり、起こされたり、まさに「事実は小説より奇なり」を地でいくような人です。その波乱万丈の人生を、いくつかのエピソードに分けてストーリーとして組み立ててあり、紅葉がお得意の文体で面白く仕上げています。その主人公の女性が本当に痛快無比で、やくざ映画の主人公のような胸のすくような侠気を見せてくれます。もちろん紅葉によって脚色はされているとは思いますが、それにしてもこんな人が実在したなんて本当に驚きます。人間的に強くないと吉原のような世界では生き残れなかったんでしょうね。この作品は紅葉の初の長編です。初めてで既にこの水準かと舌を巻いてしまいます。紅葉お得意の文語文は初めて読む場合にはちょっと戸惑います。さらっと読んだだけでは意味が通じにくいこともありますが、ゆっくり繰り返して読めばわかります。読み進むと文章に一定のリズムがあることがわかり、徐々に慣れていきます。紅葉の作品は常にストーリー重視で面白さでは裏切られることはありませんのでゆっくり読んで楽しんで下さい。ちなみに伽羅枕とは中で香が焚ける仕組みになっている木の枕のことです。髪に香を焚きしめるために使われたそうです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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