蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

芝木好子 「冬の椿」

太平洋戦争においていかに多くの日本兵が海外で死んだかご存知でしょうか?もはや正確な統計はとれないようで諸説ありますが、おおよそで言うと約800万人近くもの人が戦地に赴いて、約200万人が帰らなかったということです。恐ろしい数ですね。これは同時に非常に多くの女性が最愛の人の未帰還という悲劇を味わったことになります。通常の死であれば女性はそれを乗り越えていけば新しい人生も開けるというものですが、戦争の場合は一種独特の悲劇を生むことがあります。つまり、最愛の人が戦死したとの知らせがあって落胆しているところに再婚の話があり人生の再出発をした後に、前の旦那が生きて帰って来て一悶着……というパターンです。なにせ戦時中の、しかも敗色濃厚になってからの公報というものは全くあてにならなかったですからこういうことも非常に多かったわけです。新しい旦那をとるか、前の旦那に戻るか、悩み苦しんだ日本の女性の悲劇をドラマ化したのがこの作品です。まだ結婚はしてなかったけどこの人しかいないと決めた画学生が戦争に行ってしまい、戦死の知らせが入ります。そして執拗に結婚を迫られていた実業家と結婚してしまいますが、戦後にあの画学生が歩いているのを見たという人の話を聞いて主人公の心は揺れ始めます。誠実と思っていた実業家が実は愛人のいる不誠実の見本のような男だったことがわかったりして、余計に進むべき道に迷う主人公が最後にどういう決断をするのか?戦争が生んだ悲劇の一つの形を作者得意の情緒的なしっとりとした文章で描いてあります。テーマが重いので非常に考えさせられる作品です。この物語のような悲劇が二度と起こらないことを祈りたいです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

河野多恵子 「半所有者」

この作品は、2002年に川端康成文学賞を受賞しています。とは言うものの、この人の場合は芥川賞、女流文学賞、読売文学賞、谷崎潤一郎賞、日本芸術院賞、野間文芸賞、毎日芸術賞と文学賞とりまくりという印象があるのでこの作品の受賞もそのうちの一つにしか過ぎませんけど、読んで頂けばわかるように受賞してしかるべきすごい作品です。ではどうすごいのか?かなりショッキングな内容でして、静かに始まる感じのストーリーが思いも寄らない展開になって、え!そうきますか!という印象を受けます。非常に短い作品で10分もかからずに読んでしまえるくらいですがその短さの中で読者をあっと言わせるすごさを秘めています。いわゆる異常性愛をテーマにすることが多い人でして、うわーこの人こういう作品を書くなんて、まるで女性版谷崎潤一郎だなと思う人もいると思いますが、それは正しい感想でしてこの人は谷崎潤一郎を崇拝していました。谷崎潤一郎の作品に関しては誰よりも深く研究していると言ってもいいのではないでしょうか?その作品に関する論文もいくつか書いています。そういういわば耽美的な傾向はこの人の作品の一つの特徴です。いやそれにしてもこの作品にはビックリしますよ。読む人によって好き嫌いははっきりわかれるでしょうけど、作者の力量は誰しも感じることでしょう。好き嫌いは個人の価値観で決まりますが、衝撃を与えるというのは作品にエネルギーがあるということですからね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

近松秋江 「別れた妻に送る手紙」

近松秋江という名前を聞いて、「あぁ、近松秋江ね」とすぐわかる人が自分の近くにいたとしたら是非親しくなって、お互いの文学への思いを交換したいと思います。なぜなら非常に優れた作家なのに現代においては悲しいくらい知られていないからです。それもそのはず、普通の本屋さんには1冊も並んでいませんからね。読もうと思えば古本屋を何軒も探すか、全集を買うしか方法はないでしょう。えしぇ蔵も彼の作品は古本屋で探します。なんとも悲しい現実です。どれか一つでも作品を読んでもらえば、その高い水準に達した文章に感嘆できるのにと思います。学習と経験を積んだ上での文章というのは自ずからどこか違ってきます。それに彼の場合は文章自体も読みやすく、興味深いストーリー性もからんで読者をひきつける力があります。この作品はタイトルどおり、逃げられた奥さんへの未練たらたらの手紙という形をとっています。主人公は生活力がなくて見限られるわけですが、なじみの芸者に慰めを見出しつつも奥さんへの想いを断ち切れず煩悶の日を送ります。そのやるせない心情の表現の仕方が素晴らしいわけです。体験に基づいているからでしょうけど非常にリアルで、かつ情緒的で感嘆してしまいます。彼はこういった、いわゆる”情痴文学”で名を馳せました。彼の作品は忘却の波にうもれるべきものでは決してなく、再び世の注目を集めるべきであり、長く読み継がれるべきものであると思います。皆さんも是非一読を。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する