蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

丹羽文雄 「青麦」

えしぇ蔵は自分でも小説を書きますが、自分の文章は誰の影響を受けているのかなと考えたことがあります。意識しているわけではないのですが、どうも丹羽文雄の文章に似ているような気がします。この青麦を読んでいる時もそう感じました。無意識のうちに影響を受けているのでしょうね。この明快で読みやすい文章は、確かに自分の目指すところです。難しい語句を使わず、短い文章で淡々と表現して、読む人を混乱させない書き方は大いに学ぶべきものがあります。この作品は丹羽文雄が自分の家をモデルにしたというふうに言われています。丹羽文雄の実家はお寺でした。お寺の跡継ぎになるのがいやで飛び出して作家になるわけですが、この作品の主人公も住職である父親の人間性に反感を持ち、寺を出奔します。丹羽文雄の父親は婿養子に入ったんですが、なんと自分の妻の母親と関係を持ってしまい、妻は幼い丹羽文雄を置いて家を出て行ってしまいます。そういう修羅場を見たことが人間の業を描くこの作品につながっているのではないかと思います。ですからテーマとしてはかなり深いところをついてます。作品では住職が次々に女性を手篭めにしますが、人間は出家も在家も結局はいろんな悩み、苦しみ、欲望に翻弄されて、死ぬ瞬間まで何も悟ることはできないわけで、それこそが悲しい人間という存在であると教えてくれる作品です。文章だけでなく、こういう深いテーマに取り組む意気込みも参考にしたいところです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

草野心平 「高村光太郎」

えしぇ蔵が草野心平を初めて知ったのは、宮沢賢治の詩集でした。彼は宮沢賢治の作品を世に広めることに多大の貢献をしています。今現在、宮沢賢治の詩が世間一般に広く知られているのは彼のおかげです。そして草野心平自身も詩人です。蛙をテーマにした詩が多く、表現にいろいろな前衛的試みをしていることでも有名です。基本的に詩が本業なわけですが、小説も書いています。この「高村光太郎」は、親しい友人だった高村光太郎のことを書いた短編です。かなり親しかったようで、頻繁に行き来していたようです。その彼が見た、高村光太郎の人生の苦悩がよく描かれています。特に智恵子夫人が徐々に精神に異常を来たし、ついには入院して体調もどんどん衰え、やがて死が近づいているという段階での高村光太郎の苦悩の姿を描いている場面は涙なしには読めません。草野心平にすがるように、「ね、君僕はどうすればいいの、智恵子が死んだらどうすればいいの?僕は生きられない。智恵子が死んだら僕はとても生きてゆけない。どうすればいいの?」と言うシーンの緊迫感と悲壮感は、読む側に悲しい戦慄をもたらします。かなり深くその心情を察していたようで、高村光太郎の苦悩を実にリアルに表現しきっています。やはり同じ文学の才能がある者同士で通じ合うものがあるのでしょうね。親友としてそばにいて記録したこの作品は、草野心平を知る上でも、高村光太郎を知る上でも貴重な作品だと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

久保田万太郎 「市井人」

久保田万太郎といえば、かつての江戸を思わせるような下町人情ものの第一人者ですね。この人の作品を読むと、当時の東京の下町の人たちの人柄や生き様がよくわかります。今でも浅草あたりに行くとそういう人たちが残っているかもしれませんね。そういった下町の人情とともに、久保田万太郎を語る上で忘れてはいけないキーワードが、「俳句」です。この人はこの世界でもすごい人なのです。中学時代から俳句を作っていたそうで、かなりの数の秀作を残しています。それでこの作品なんですが、この二つの要素がどちらも盛り込まれています。大正時代の東京の下町での物語ですが、ここに蓬里さんという俳句の先生が登場します。他の登場人物も俳句を作ったりしますが、物語の中心にあるのが俳句なのです。一般人の何気ない毎日の生活の中で、ところどころに俳句が登場し、ドラマに色をそえています。その登場する俳句がまたいいんです。作品に盛り込むからには秀作を選んだことでしょうけど、どれもしみじみ読み返したくなるものばかりです。普段の生活の中でふっと出て来た感想を歌にする、その楽しさを学ばせてくれるような作品です。おそらくこの作品を読めば久保田万太郎の俳句をもっと読んでみたくなるだろうと思います。いろんな句集が出てますので是非そちらも読んでみて下さい。そうして久保田万太郎のみならず、俳句に親しみを持ついいきっかけになってくれれば幸いです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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